神戸“復興“における、知られざる陰と闇

ビジネスモデル

9月21日(土)に放映されたNHKのETV特集、「“復興“はしたけれど~神戸 新長田再開発・19年目の現実~」は実に考えさせられる内容だった。1995年の阪神・淡路大震災で深刻な被害を受けた街、神戸市西部の新長田地区の再開発の失敗の教訓を改めて追ったルポだった。

小生は相当昔だが、神戸でプロジェクトをしていた時期があり、その当時から「神戸株式会社」と揶揄されていた特殊な地域だった。阪神・淡路大震災で大打撃を受けた当地域のことを忘れたことはなかった。しかし自分が何かできる仕事は見つけられなかったまま20年近くが過ぎ、東北のモデルになるほどの復興ぶりを聞かされてきて安心し、誇りに思ってきたものだ。それが、一部地域とはいえ全くの欺瞞だったことを教えられ、とてつもないショックを受けている。

震災後、神戸市はこの街を復興させようと、総事業費2,700億円の巨大開発計画、新長田駅南再開発事業を打ち出した。被災地を商業ビルや高層マンションなど44棟が建ち並ぶ「神戸の西の副都心」として再生しようという、震災前から神戸市が温めていた再開発計画をここぞとばかりに実行したのだ。震災で焼け出された商店主たちは、新しい街づくりに再起の希望を託した。

19年目後、再開発で生まれ変わったはずの街に異変が起きていた。真新しい商業ビルの中にはシャッターを閉じたままの場所が目立つ。店舗スペースが大量に売れ残り、商店街を訪れる客の数は震災前より激減した(ある商店主に云わせると、三分の一)。大きな借金を背負って再開発事業に参加した商店主の多くが深刻な経営悪化に苦しんでいるのである。

震災前から新長田で商売をしてきた老舗の商店主のコメントが彼らの窮状を表している。「店を売りたくても買い手がない。貸したくっても借り手がない。10年かそこらで資産価値が3分の1に落ちてしまう街なんて他にあると思う?・・・ちょっと酷すぎるわ」と。彼らの一人が言っていたのが、「税金と借金で年300万円。でも実際には30万が精一杯。いつ差し押さえられるかという恐怖と皆が闘っている」という現実。再開発事業は今やむしろ別の厄災をもたらしている。

駅に近いところだけ再開発されて、奥は後回し(これは実は再開発の一つのパターン)、土地を売り、再入居なりしたものの、商業ビルは閑古鳥のありさま(1Fでさえ息絶え絶えで、2Fや地下はゴーストタウン状態だ)。売るに売れない現実と、迫りくる世代交代(年齢)の問題・・・。

最後は、再開発における「管理会社」の問題で衝突する小口区分所有者たちと、大口区分所有者・神戸市の対立と話し合いが描かれていた。特に「新長田まちづくり株式会社」という管理会社の不透明な実態(領収書だけでは、買い手と売り手がどちらもまちづくり株式会社だという摩訶不思議な処理がなされていることになり何も分からない)と、驚くべきことに神戸市の指示にさえ従わない(住民との話し合いに出席拒否など)という実態・・・。

一体何が起こっているのか、外部からだけでは伺い知れない闇が拡がっている。これは住民の告発により、刑事事件か、せめて民事訴訟を起こすしかないのではないか。小生は訴訟を推奨する立場ではないが、本件に関しては「白黒つける」必要があると考える。

何といっても多くの再開発事業参加者は、息子・娘への資産・借金の引き継ぎを諦め、場合によっては自己破産さえ視野に入れている。しかし毎日働き続けてながら、絶望の中での抵抗を続けているのだ。神戸市とまちづくり株式会社は、この人たちにまっすぐ向かい合うことができるのか。