「農協」に依存しなければニッポンの農業は“攻め”に向かう

ビジネスモデル

9月 29日(日)のBiz+ サンデーの特集は「“攻めの農業”最前線」。国が成長戦略の1つに掲げる「攻めの農業」とは新たなビジネスモデルの構築に取り組む生産者を支援することで、「所得倍増」「輸出額1兆円」を目指している。本当に農業の構造改革は進むのか?番組では収益拡大に挑戦する各地の生産者たちの姿を追った。

冒頭にみずほ銀行の試算が掲げられた。農業の生産性を50%向上させることができたら、GDPに対する影響は、農業直接で2.3兆円、「農業+関連産業」でなんと4.1兆円のプラス。雇用への影響はそれぞれ30万人、52万人というのだ。

何とも凄い数字だが、そもそも50%の生産性向上なんてビジネスの世界では通常あり得ない(全くビジネスモデルが変わる場合には実はあり得るが)。しかし、解説に招かれたみずほ銀行の産業調査部の山岡所長は「同じ緯度にあるイタリアの生産性は3倍。50%の生産性向上も、所得倍増も可能だ」と断言した。

番組は“攻めの農業”のキーワードを3つ挙げた。それが①顧客ニーズの(徹底的)把握、②企業との(踏み込んだ)連携強化、③海外進出だ。それぞれの事例が紹介された。

①の実例はトップリバーという農業法人。嶋崎社長は農業に営業がいないことに驚き、会社設立と同時に営業部門を立ち上げた(といっても1人のようだが)。その営業担当は定期的にお得意様企業(例:ぎょーざチェーンやファミレス)を訪問し、例えば「(収穫の時に外していた)外葉を1枚残して欲しい」とか「より柔らかいレタスが欲しい」などの要望を受け、それを生産部門に伝えるのだ。これによって業績は着実に伸びているという。全く普通の企業活動だ。こうした基本的なことをやっている農業法人すらほとんどなかったということだ。

「農業は成長産業なのか?」というキャスターの疑問に対し、山岡氏は①(世界での)人口増大、②肉食の増加に伴う穀物需要の増加、③耕地面積がほとんど増えていない、の3つの理由を挙げた。要はグローバルでみて需要の増大に供給が追い付かないということだ。

②の実例は宮崎の養鶏農家。外食産業との連携で宮崎のブランド地鶏「みやざき地頭鶏(じとっこ)」を全国ブランドに成長させることに成功させた。美味しいのに当初は知名度がなく全く売れていなかったそうだ。それを東京の居酒屋チェーン「エー・ピーカンパニー」が見つけ、生産者から直接仕入れることで、割安な価格で郷土料理の炭火焼に仕立て上げ、ヒットにもっていったのだ。これはチェーン拡大の原動力にもなったという。宮崎地鶏の生産量は3倍に延び、さらに加工所も設け、笑いが止まらないようだった。「エー・ピーカンパニー」は他にも魅力的な農産物を全国で発掘しようとしている(先週にはこの企業は上場した)。その1つ、しいたけ農家は「現場を見てもらって、作り手の話を十分に聞いて、理解してもらって」と手ごたえを語っていた。

③の事例は、ベトナムでコメを生産しシンガポールやタイ、さらには将来米国などへ輸出することを目指している農業法人だった。ここまで踏み込んでいる例は少ないと思うが、普通の工業・サービス業はとっくにやっていることでもある。農業も普通の産業になりつつあり、それが“攻め”であり、成長産業への道なのだ。

従来の日本農業の低い生産性は、「サラリーマンの息子が主たる稼ぎ頭で、その両親と嫁が片手間でやっている」、いわゆる三チャン農家が大半だったからなのだ。しかも市場への供給機能は果たすが、やる気のない彼らを活かさず殺さず、収益を吸い取る仕組みとして機能していた「農協」に依存していたからなのだ。やる気のある農家ならば自ら商品企画で工夫し、自ら営業して需要家に売り込むことで、そして海外を視野に入れることで、ビジネスを倍以上に拡大することができるはずだ。