「疲労」を解明した脳科学研究者は過労死を激減させるか

ビジネスモデル

9月1日放送の「夢の扉+」は「世界初!疲労のメカニズムを解明し、“疲れ”を数値化!疲労大国ニッポンを救いたい!~新常識をつくった医学博士」。ドリームメーカーは大阪市立大学の特任教授、渡辺恭良氏。

番組冒頭で紹介される質問、「疲労の原因は何だと思いますか?」。多くの人は「乳酸」と答える。それは「都市伝説だ」と断定するのが渡辺教授である。身体の異常を知らせる 「痛み」、「発熱」、「疲労」は“三大生体アラーム”と呼ばれ、重大な疾患が潜む可能性もあるが、これまで客観的な診断法、初期治療法(プライマリー・ケア)は確立されていなかった。この“医学の忘れ物”に真正面から挑み、「疲労」のメカニズムを分子・神経レベルで解明したのが、大阪市立大学の渡辺氏。どれだけ疲れているかを客観的に測る検査法を確立、疲労の数値化に成功したのである。

挑戦のきっかけ、それは自身の過労だった。脳科学を専門としていた渡辺氏は、40代半ばで、研究費13億円という脳科学研究の国家プロジェクトのリーダーを任された。しかし疲労困憊の日々が1年間続き、遂に激しい腹痛に倒れた。『自分が体験したような“疲労”をなくしたい!』。渡辺氏は、生涯のテーマを決意した。そのパートナーは大阪市立大学医学部付属病院の疲労クリニカルセンター、倉恒弘彦医師。

1999年、疲労研究は国家プロジェクトとしてスタート。これまでに国や企業から30億円という莫大な費用が投じられた。他の研究者の中には「疲労を研究する意味などあるのか」などと、心ない批判も繰り返されたそうだ。

しかし渡辺教授を中心とする研究チームは成果を出す。まず、疲労の主な原因物質とされてきた「乳酸」にはむしろ壊れた筋肉を修復し疲労を回復する役割があり、別の物質が疲労の原因であることを証明した。それが活性酸素。体内の細菌を退治する役割を持つ活性酸素が、オーバーワーク状態では大量に増え、正常な細胞まで傷つけてしまう。この傷つけられた細胞が修復されないうちに蓄積されている状態が「疲労」だということを突き止めたのである。このメカニズムを発表すると世界は驚き、今や渡辺氏をノーベル賞候補に推す声もあるという。

さらに、渡辺氏は30億円という豊富な資金をフル活用し、「疲労回復物質の比較」というアプローチを採用し、疲労回復に絶大な効果を発揮する “イミダペプチド”にたどりつく。これはマグロの尾ひれや渡り鳥に豊富に含まれ、一日200㎎接種し続ければ疲労回復に効果が大きいそうだ。

そして今、渡辺氏が新たに目指すのは、手軽にかつ高い精度で、疲労を数値化すること。色々なアプローチを試したが、そのほとんどは個人差があるため使えない。そして天啓が閃いた。測るのは「自律神経」のバランスと機能年齢。交感神経と副交感神経のバランスが崩れていると疲労が溜まっている可能性が高い。さらに多くの人のデータから、「自律神経」の機能年齢も割り出した。これを手軽に測れる疲労度計をメーカーに製作してもらった。

不名誉なことだが世界共通語になってしまった“Ka-ro-shi(過労死)”を防ごうと突き進む、ニッポンが誇る科学者の魂を見た思いがした。