スマートアグリは日本の農業に光明をもたらすか

BPM

NHKの「クローズアップ現代」で「農業革命“スマートアグリ”」(5/20放送分)を観た。非常に興味深い内容だった。ITを使っての農業管理や植物工場を指す言葉だが、正直今までは大したインパクトがあるものとは思っていなかった。ところがこの番組で紹介されたオランダの取り組みを見て、認識を新たにした。

オランダの国土は日本の1/10、九州程度の面積。農地面積は日本の半分。農家人口は日本の1/20(たった15万人!)。それでいながら世界第2位(2010年で773億ドル)の農産物輸出国(日本は51位で、たった32億ドル)。この数字を見る限り、「狭い日本では…」という言い訳が情けなく聞こえる。

画面にはいきなり巨大な農業用ハウス(7km×2km)が登場し、度肝を抜かれる。こんなのがあちらこちらに姿を現しているのだという。北ホラント州には高付加価値のトマトやパプリカを栽培する企業10社が集まった巨大農業地帯が拡がっており、オランダには他にもこうした場所が5か所あるらしい。そしてこの「アグリポート」の一つの農業経営者の1人の仕事振りを見せてくれるのだが、ハウスの温度や湿度など、500項目以上のデータをオフィスのPCでリモート管理するのが大半だという。

滅多に行かないというハウスを案内してくれると、日本の平均的なハウスのおよそ2倍、6m以上の高さがある。トマトを縦に高く伸ばすことができるため、面積当たりの収穫量は日本の3倍になるという(「目から鱗」である)。土の代わりに使われているのは人工繊維。そこに養分を加えた水を1日60回、自動で与える。苗の下のビニールの管からは二酸化炭素も自動で散布。光合成が最も活発化する外気の2倍以上の濃度にコントロールされている。さらに栽培に使用する水はすべてこの機械で殺菌し、徹底した品質管理が行われている。

まさに「植物工場」であり、これは工業なのである。投資額も半端ではない。この経営者はこれまでハウスの整備に100億円以上かけてきたという。3年前、オランダでは農業を産業として捉え、当時の農業省を経済省に統合、農業技術の研究を支援している。EUには農業大国のスペイン、ポルトガルが入り、彼らに負けない競争力をつけないと生き残れないと覚悟が定まったのである。そのための付加価値の高い野菜へのフォーカス、ハウスの大規模化、そしてIT活用によるスマートアグリなのである。

番組後半では日本の一部の企業や農家による、スマートアグリの独自取り組みが報じられていた。若きIT企業経営者と、やる気のあるトマト農家の例である。オランダの例に比べるとレベルや規模は随分見劣りするが、「スマートアグリ後進国」のニッポンでは先端的取り組みなのである。「規制擁護派」の農協に頼り切ったサラリーマン農家にはとても期待できない、光明を感じさせるものだ。

今まで巨大な国内市場に頼り切り競争を避けてきた日本の農業も、高齢化が行きつくところまで進んでいるし、TPP加盟も既存加盟国の承認待ちまで来た。このまま何もしないで海外の安い農産物が押し寄せる時期が来れば、かなりの農家・農村が「死に絶える」しかない。政府・農水省は使えない能書きを垂れていないで、思い切った農業規制撤廃と競争政策、そしてIT活用を促進してこそ、日本の農業にも死地を突破する気概のある勢力が生まれよう。オランダの、危機感に根差した戦略性と実行力を見習うべきだ。