3本目の矢の中核、「企業支援」策に実効性はあるか

ビジネスモデル

安倍総理自身によって先日発表された、「成長戦略」の第2弾の4項目の一つ、「企業支援」について考えてみたい。挙がっていた項目は2つ。1.「企業実証特例制度」(企業の先端的な実証実験に規制緩和を認める)、2.今後3年間を「集中投資促進期間」と位置づけること(企業の設備投資総額を年間70兆円規模とする目標)。

1つ目は具体的には不明だが、好意的な見方をすれば、例えば開発した医療機器を認証される期間を短縮するよう特例的扱いをするなど、有効な分野は幾つかあるかも知れない。こうした「規制緩和」は日本ではかなり有効である。2つ目は目標設定だけであり、その目標を達成するための具体的政策が全くなく、希望的ゴールだけが示されたわけで、話にもならない。官僚の作文としても出来が悪い。

範囲を拡げて考えよう。成立したばかりの安倍政権の中小企業対策費は1,811億円。うち経産省が1,071億円を数える。内訳は、小規模事業等への支援や事業再生、資金繰りなど(「中小企業金融円滑法」が3/末で期限切れを迎えたことを受けての実質的“モラトリアム”延長)がかなりの割合を占めそうだが、ものづくりや海外展開などの新たな挑戦への支援といった前向きなものも登場している。例えば中小企業が新たな製品を大企業などに提案する際に試作を提出しないと話が進まないことが多いが、試作製作に補助を出すなどするようだ。また、地域商業の機能強化による地域経済の活性化などもテーマに挙がっており、地域特産物を紹介したり、それを縁に地域連携などをしたりするケースを想定しているようだ。

狙いは悪くないが、根本的な問題が幾つかあり、実現性・実効性には大いに疑問がある。

まず中小企業の事業再生には再生計画を立てる必要があるのだが、そもそも中小企業の親方に事業計画策定の能力がないため、金融機関の職員や“事業再生コンサルタント”と称する人たちが代行しているケースが大半だ。その中身は“財務リストラ”ばかりで、肝心の“事業リストラ”(既存事業をいかに儲かるように変えるか、どんな新規事業を進めることで新たな収益の柱を育てるのか)はあまりに難しくて、放棄されている場合が大半である(と、某信金の人から聞いた)。これでは延命はできるが、本当に再生できるはずがない。

これは「新たな挑戦への支援」のケースでも共通する問題で、中小企業の親方は「こんな製品を作りたい」という思いはあるかも知れないが、それがどういうターゲットに対しどういう価値をアピールすると売れるのか(マーケティング)、どんな商流・物流なら関係者が利益を上げることができるのか(バリューチェーン)といった事業の設計をやったことがない。

支援者の人材も非常に限られている。大半の金融機関の職員も、地方自治体の職員もやったことがない。実は中小企業向けの“〇〇コンサルタント”と称する人たちの大半も、これはできない。ごく一部の自治体職員や、地方に住むコーディネータたちが試行錯誤的に挑戦中で、少しずつ成功例も出てきているようだが、全体からするとあまりに稀である。

本来、この世界は戦略コンサルティングの世界であり、本当のプロじゃないと有効な支援は難しい。それなのに金額的には報酬が圧倒的に小さいのである(小生も縁があればアドバイスすることがあるが、中小企業向けを本業にするのは金額的に難しい)。大企業・中堅企業向けに活躍している有能な戦略コンサルタントが、この世界に流れることは“モノ好き”な例外なのである。

例えば、先ほど挙げたポスト「中小企業金融円滑法」の措置として、外部専門家等の経営支援を受けて経営改善計画を策定する場合には費用の2/3、上限200万円までの補助が出るのだが、中小企業自身が自腹で思い切ったカネを出そうとしないのである。自治体や金融機関に大半を負担してもらおうという依存心の高い企業が生き残り、さらに発展することはなかろう。

結果として、わずかな金額に群がってくるのは「コンサルタントもどき」の連中か、融資した金を回収することに躍起になっている金融機関の関係会社であるコンサル会社(そこの職員というのは金融機関のサラリーマンの出向)だけである。前者の多くは大企業を引退した元サラリーマンたちで、年金に上乗せする小遣い稼ぎを狙って登録していると小生は聞いている。経営資源のない中小企業向けの戦略コンサルティングはある意味、大企業向けより難しい。こうした「楽して中間管理職を長くやってきた」素人たちにできる仕事ではない。