安倍政権の成長戦略「農業の活性化」に中身はあるのか?

ビジネスモデル

安倍政権の「成長戦略」の第2弾が総理自身によって先日発表された。項目は4つ、
① 「農業の活性化」(農業・農村の所得倍増、農産物の輸出倍増など)
② 「企業支援」(「企業実証特例制度」の検討、今後3年間を「集中投資促進期間」とする、など)
③ 「教育改革」(今後3年間で外国人教員倍増、グローバル教育に熱心な大学への交付金配分など)
④ 「クールジャパン戦略」(放送コンテンツの海外展開への支援など)
である。数は少なくないが、民主党政権もしくはその前の自民党政権の時代から云われていたものの焼き直しばかりと感じる。しかも目標を掲げるだけや「検討します」レベルのものばかりで、明確な戦略に基づき具体的かつ実際的な政策の裏付けがあるものは非常に少ない(というか、あるのか?)。

特に①「農業の活性化」はひどい。多分、農林水産省内でコンセンサスが取れた旧政策テーマについて官僚が改めて書き直したに過ぎない。そもそもロジックすらおかしくて、2~300億円程度の国産農産物輸出が倍増したところで農家全体の所得倍増へのインパクはほとんどない(もちろん、一部の農家が所得倍増するケースぐらいあるだろうが…)。これと「6次産業化」以外には農家の所得倍増に意味があるものは見当たらない。

それに輸出倍増の前提としてそもそも国際競争力を付けるためには、今の価格・コストをせめて半減(できれば1/3程度に)しなければ、国際市場の土俵にすら乗らない。その価格・コスト半減の必要条件は競争の導入と規模拡大・効率大幅改善であり、具体的には減反政策の取り止めによる農地集約と、民間企業の参入への規制解除である。この方向に踏み出せば、例えばITを使っての農業「革命」も可能である。

しかしこの「価格半減」にも「民間企業の参入」にもJAが強烈に抵抗する。なぜなら彼らの収入は農産物売上に比例する手数料なので、同じ数量なら価格が半減すると、彼らの収入も半減するからである。ましてや民間企業に自由に参入されたら自分たちの商売が浸食されるので、なるべく邪魔をするのが本能なのである。したがって色々な側面でJAと密接な協力関係にある農林水産省がJAの嫌がることを推進するのは、よほどの圧力がないと難しい。その圧力を掛けるべき立場の政治家、特に自民党政権は、一大政治勢力であるJAに「選挙で落とすぞ」と脅されれば、他愛もなく腰砕けになろう。これは民主党政権でも同じだった。

「6次産業化」については農業関係者の間で損する人、すなわち反対する人は少ないだろう。しかしできているケース自体が少ないのである。そもそも加工業者や食品メーカーもしくは大手飲食業者が思いつく、付加価値を上げる方法は既に試しているのである。彼らができずに(またはやらずに)農家に残されている商品分野やビジネスモデルは当然限られている。それは大量生産・消費に向かない加工法や商品分野であって、農協ルートにも乗せられないニッチマーケットだろう(例えば規格外農産物を地元レストランや弁当屋に直接売るネットワークを作る、など)。

こうして考えてくると、そもそも日本の政治・行政が前向きな意味で「農業の活性化」を何かまともにできるとは思えない。彼らができるのは唯一、減反政策や参入規制など、やる気のある民間の手足を縛っている既存の政策を止めることだけである。本当は農水省を廃止して経産省と統合するのが一番有効なのかも知れないが、さすがに実際的ではないだろう。せめて「特区制度」を突破口にする形で構わないので、減反政策と参入規制を廃止してみて、そこで成長モデルを作って欲しい。

②「企業支援」以下は、機会があれば別途論じてみたい。