基本と合理性を徹底追及する経営こそがしまむらの真髄

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11月28日(木)のカンブリア宮殿は「安さの裏に大胆戦略!店舗数日本一“しまむら流”独自経営の裏側」と題して、しまむら 代表取締役社長の野中正人(のなか・まさと)氏をフィーチャー。独自経営というより、基本と合理性を徹底追及する経営だと思う。

全国約1300店という日本一の店舗数を誇る(ユニクロは目じゃない)しまむら。グループ売り上げでは4,910億円と、ファストファッション業界では世界9位(ちなみにファーストリテイリングは5位)!

人気の秘密は、驚きの安さ。それを実現する秘密の第一は、メーカー側との取引の合理性にある。約500社の納入業者から大量に服を買い付ける(ユニクロのようなSPAではない)バイヤーは59人。毎日押し寄せる売り込みに対し、平均2回の商談で決着する。そのルールは徹底していて、「三悪の禁止」とされている。その第1は「返品禁止」(完全買い取り制)。つまり商品が売れ残っても「追加の値下げ要求はしない」という掟だ。

第2が「再値引き要求の禁止」、第3が「販売応援の要請禁止」である。過去多くの小売が没落した原因である甘えの商習慣を排除して、小売が腹を括るという姿勢を見せているのだ。非常に潔く、気持ちよい姿勢で、シンプルだ。そこに「物さえよければ1万点の買い付け」という規模の経済を背景とした交渉力(これは正当な力の行使である)を発揮させるのだから、メーカーはどの小売に出すよりもしまむらに最低価格を提示する。本当にガチンコ勝負で、メーカーにぎりぎりの低価格を出させるための合理的な掟のセットである。

ダイエーやマツモトキヨシ、ヤマダ電機など、小売の時々の覇者が規模を背景にメーカーや卸に対し(先の「三悪」に代表される)理不尽な押し付けをすることに、かねてから小生は納得がいかなかった。それらの行為は巡り巡ってメーカーのコストやリスクに撥ね返り、メーカーはその分だけ納入価格に上乗せをせざるを得ない。つまり無理難題を吹っ掛ける小売は結局、自らの首を締め上げていることに何故気づかないのか、不思議で仕方なかった。しまむらがまっとうなやり方で業績を上げていることで、小売業の旧悪弊が改善されることを願う。

だが、しまむらの強さは低価格の仕入だけではない。それがこの番組では丁寧に目配りされ紹介されていた。

しまむらの商品の売り方にはある特長がある。店舗に並べられている商品は1つのアイテムにつき、各1サイズ・各1カラー。全く同じ商品は1店舗に1つしか置いていない。これこそが「しまむら流 売り切れ御免」の販売手法だ。小売の経営側から見れば、どんどん早いサイクルで商品を投入し続けることで、移り変わりの早い流行のトレンドに対応できる。機会ロスよりも新鮮なうちに「売り切る力」を重視しているのだ。顧客の視点でいうと、狭い商圏を相手にしているので、たまたま同じ商品を着ている人が出逢ってバツの悪い思いをすることを避けるためである。さらに常連客に「あとでと思っていると誰かに買われてしまう。見つけた時に買わなきゃ」と思わせる効果も大きい。

しまむらのもう一つの特徴は「コントローラー」の存在だ。バイヤーは流行を先読みして大量の商品を発注し買い付ける。一方、その大量の商品を売り切る役割を担うのがコントローラーだ。例えば、ある特定の商品に注目し、少し売れ行きが芳しくない店から売れ行きのよい店に全国的に移送する決断を下す権限を持つ。彼らが売り切る平均目標は何と1ケ月。番組で紹介されたジャケットの例では400店→400店で実施された。

しまむらのローコスト戦略を支えるのが全国に9ヵ所の自社物流センター。無人で24時間稼働するコンベアオペレーションにより徹底的にコストの削減を図っている(最大規模のセンターでも20人ほどしかいないという)。アパレル各社が製造拠点を置く中国に大規模な物流センターを持ち、メーカーはそこに収めればよいし、国内の配送先も値札もそこで決まっている、非常に効率的だ。1点当たりの物流コストは50円前後という。この数字は宅配に大量発注しても到底ありえない、脅威の数値である。

過去の経営改革の「年表」が表示されていたが、それが凄い。1961年の2店舗しかない時点で本部集中仕入れを開始し、1975年の6店舗時点でコンピュータを導入している。1981年の37店舗時にオンラインでPOSシステムと結び単品管理を実施(7-11より1年早い!)。1984年には(54店舗)埼玉に自社物流センターを設立したとある。小売ではほとんど業界初ばかりかも知れない。とにかく自前で(ここは専門家としては異論もあるが、自分達の頭で考えるという意味では賛成だ)、実験して、色々自分達に合ったやり方を見つけ出す、というスタイルだという。

番組の後半ではパート主婦が主役になってオペレーションできるための色々な工夫(店長会議、マニュアル、改善提案など)が紹介されたが、こうしたことは以前にも紹介した通りである。
http://pathfinderscojp.blog.fc2.com/blog-entry-254.html

ロープライスの裏に徹底したロジックと実践がある。要はこの会社の経営のベースには、売り切ることと低コストが低価格を可能にし、それが大量販売という規模の力につながる、という「好循環」が明確に認識されているのである。非常にシンプル、かつ原則を大切にする経営スタイルであり、好感が持てる「業界の巨人」である。