農業を成長産業に変える知恵はリスクをとるところから出る

ビジネスモデル

一昨日に続いて「クローズアップ現代」の話題です。7月16日(水)の放送は「再生へ待ったなし ~農業改革の行方~」。小生が注目し続けているトピックです。

農業を、どう成長産業に変えるのか。先の6月、政府は農協改革を打ち出しました。各地域の農協の創意工夫が発揮されるよう、組織の在り方に改革を求めたのです。しかし現場の農協や農家からは戸惑いの声が上がっているのも事実です。
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多くの農協では共同販売という、JAグループ独特の方法で販売しています。各農協が農家から作物を集め、販売を手がける上部組織に出荷します。そこで他の農協分も一括して(というか、混ぜて)出荷。共同で販売することで、農協が個別に交渉するよりも強い価格交渉力を持ち、農作物の価格を維持してきました。この方法のデメリットは、個々の地方産地のブランド化はできないということです。

一方、組織頼みの販売方法だけでは農家の所得向上につながらないと考え、独自の販路を開拓し始めた地域農協が現れています。山梨県の県北部にある梨北農協がコメを直接牛丼の吉野家に売り込もうとしている姿が紹介されていました。この梨北農協、以前から数々の改革で注目を集めてきました。その一つがコメの販売方法の見直しです。以前は多くの農協と同様に、JAグループを通じた共同販売に頼っていました。でもそれだと、梨北のコメはほかの産地のコメと混ぜられ、「山梨県産」として売られるため、梨北のコメとしての評価を価格に反映することができなかったのです。

そこで上部組織に販売を委託するのではなく、農家から買い取り、独自の価格設定で直接、卸業者などと取引を始めたのです。当然、梨北農協が大きなリスクを負います。それでもコメを高く売るために、梨北農協の堀川千秋組合長が決断したのです。「(米の)値段を決めるときは私も本当に、2晩くらい眠れませんでした」と率直に吐露されていました。

高値での買い取りが実現したとして、農家の山本さんは地元の高齢農家の水田を借り受ける面積を増やし始めました。地域では耕作放棄地の拡大に歯止めをかけることにつながるかも知れません。

堀川組合長は、地域の農業を維持するために、JAグループにこだわらない独自の改革を続けるとしています。「農家が繁栄して初めて系統組織(JAグループ)というものが成り立ちます」と。この言葉、民間のフランチャイザーの会社が言えば当たり前ですが、地域JAのトップがいわば顧客志向と言っているのですから、本当に珍しいことです。こうした勇気と常識的なビジネス感覚のあるJAが増えることが、JAと地域の農業の再生にとって不可欠です。

番組後半では、JAを通さないで農家からねぎを直接買っている、京都の九条ねぎの生産会社の話が紹介されていました。年間の出荷量は900トン。売り上げは6億6,000万円に達しています。この会社がここまで出荷量を増やせたのは、自社でねぎを栽培するだけでなく、地域の農家からも買い集めることができたからです。

なぜ農家は農協ではなく、この会社にねぎを出荷するのか。この会社と契約すると1年先の買い取り価格が提示されるからです(農協へ出荷した場合、卸売市場での競り結果次第なので、いくらで売れるか分かりません。農協はリスクを取らないからです)。この会社に出荷すれば、農家は出荷量に応じた翌年の収入の見通しが立ちます。経営が安定するとして、農家は次々とこの会社にねぎを出荷するようになったのです。

つまり、この会社が価格変動リスクをとっているのです。市場価格が低迷し安くしか売れなかった場合、会社が損失を被ることになる、そのリスクをどう回避するのか。この会社が出した答は、ねぎを安定した価格で売るための商品開発でした。3年前にねぎの加工工場を4億円かけて建設。0.1ミリ単位でねぎのカット幅を調整したり、袋詰めの量を変えたりして、取り引き先のニーズに合わせた商品開発を行っています。そうすることで市場価格に左右されず、一定の価格を維持しようとしているのです。

これこそが民間の活力であり、農業をビジネス化することで生まれる民間の知恵です。通常のJAのようなリスクを取らない組織からはなかなか出てこない「知恵出し努力」の賜物です。リスクをとる態度から知恵が生まれ、結果として利益が生まれる。そのプロセスがビジネスの発展を生むということがまさに実証されているのです。