高齢ドライバーが巻き込む命の重さと生活権

BPM

昨日に続いて「クローズアップ現代」の話題です。7月8日(火)の放送は「運転し続けたい ~高齢ドライバー事故の対策最前線~」。何とも悩ましいイシューです。

番組冒頭にあった、6月18日に発生した、北海道旭川市で3人が死亡した交通事故。事故を起こしたのは、75歳の女性ドライバーでした。交差点で右折のタイミングを計っていた女性は、前の車が動き始めたので、そのまま続いて交差点に進入しました。スピードを上げて迫る対向車に全く気付かず、そのまま衝突したのです。歩道にいた高校生まで巻き込まれる、大惨事となりました。

実は高齢者の事故のおよそ6割が、こうした交差点で起きています。なぜ高齢者の事故は交差点に多いのか。高齢者は若者に比べて、交差点での判断により時間がかかるからです。ドライブシミュレーターを使った実験では、多くの高齢者の運転特性を調べました。対向車の切れ目を見計らって交差点を右折するケースでは、若者の平均1.9秒に対し、70代の高齢者の場合、衝突までの余裕は平均1.2秒でした。僅か0.7秒の差ですが、対向車が12メートルも近寄ってから右折していることを意味します。そりゃあ事故ります。

より複雑な状況だともっと混乱して判断が遅れることも分かっています。名城大学理工学部の中野倫明教授が「複数のものに注意をするというのが、加齢にともなって、苦手になってくる。どのタイミングで、どういうふうに行動するといいかということが、すべて遅れるわけですね。見逃したり遅れたりすると、それが事故につながっていく」とコメントしていましたが、まさにそうです。

高知工科大学地域交通医学研究室の朴啓彰客員教授によると、脳の一部の血流が悪くなって出来る、「白質病変」という異変が高齢者の交通事故に密接に関係することが判明したのです。白質病変が脳の両側にある人は、ない人に比べて、事故を起こす割合が1.6倍高く、さらに交差点での事故に限るとその差は3.4倍に広がりました。

白質病変は脳の情報伝達機能を低下させ、重度になると認知症の原因になるといわれています。年齢とともに増える傾向があり、交差点での事故が高齢者に多いことと一致します。しかも高齢者になればなるほど、個人差が大きいことも事実です。

番組後半に紹介していましたが、視野が狭くなることも相当関係していると思います。運転には左右90度の範囲で物が見えることが望ましいのに、65歳を超えると左右60度ぐらいに狭まってしまう人が多いということです。これでは交差点等での見落としは避けられません。むしろ事故が起きないのは単に運がいいだけに過ぎないとも言えるでしょう。それにもし見えたとしても、反応が遅いということが大きいでしょう。単純な作業課題であればともかく、複数の作業課題を同時に扱う場合に高齢者は極端に遅くなりがちです。これは高齢者の脳の特性といってもいいでしょうね。

増える高齢ドライバーの事故を防ぐため、全国の警察では高齢者に運転免許の自主返納を呼びかけています。しかし、すぐに免許の返納を検討する高齢者は、なかなかいません。現実問題として、地方で免許がなかったら生活に困ります。返納を薦めている警察官たちだって自分が高齢になってもなかなか返納しないでしょう。

山口県警では、免許を返納した高齢者にさまざまな特典を用意しました。買い物をした荷物を無料で配送するサービス。さらにタクシーや商品の割引など、500以上のサービスを受けられるようにしたところ、免許の返納は5倍に増えたそうです。でも病院通いの場合、タクシーは無料になるのでしょうか。そうしたことを心配する人はかなりいるでしょう。

そもそも自分が高齢者でありかつ運転するには耄碌し過ぎているなんて認識している高齢者はよほど体にガタが来ているか、病気で生気がなくなっているか、元々運転に苦手意識を強く持つ人ぐらいでしょう。人間はそんなに客観的ではいられません。運転能力に関する過信のない人を探すほうが難しいものです。

しかも高齢になるとより過信が暴走し、より我儘になります。番組の最後のほうでも紹介されていましたが、事故を回避する自信があるかという年代別のアンケートデータでは60、そして70、75歳以上になると、ぐっと増えてしまいます(客観的には逆ですね)。

一時停止の場所で止まらないといった「天上天下唯我独尊」的な高齢者も増えるそうです。これは(圧倒的に爺さんに多いと思いますが)交通規則よりも自分の経験則のほうを頼りにし、しかも「自分は経験豊富だからよく知っている」という傲慢さが増すためでしょうね。ビジネス界でも老害が話題になりますが、道路交通においては他人の命を奪いかねないことです。早めに「引退」する勇気を持てる人は耄碌していないということです(逆も真なり)。