米国中間選挙の持つ意味

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さる11月8日の火曜(現地時間)に実施された米国中間選挙。ご存じの通り、事前の下馬評を覆して民主党が善戦しました。このニッセイ基礎研究所の分析は要領よくまとまっているので、参考になると思います。


ここにあるように、結果的に「下院は共和党が過半数を奪取、上院では民主党が過半数を維持し、新議会では上下院で「ねじれ議会」となることが決まりました。


バイデン大統領の支持率が40%台前半に低迷していたこと、急激なインフレは民主党の経済政策のせいであるという不満が高まっていたことから、選挙直前には共和党が地滑り的な勝利を収める(「赤い波が来る」と呼ばれていました)との見方が支配的となっていましたが、共和党は予想程には票が伸びない結果となった訳です。


「民主党の善戦、共和党の伸び悩み」の要因分析は世界中で行われていますが、前者については民主党の作戦がよかったと思います(それまでの政策はダメダメでしたが)。人工中絶問題の争点化、トランプとその支持者に対する反感を「民主主義の危機」という言い方で煽ったこと、そして選挙応援に(人気のない)バイデン大統領ではなくオバマ元大統領を代わりに飛び回らせたこと、の3点を挙げたいと思います。


では「共和党の伸び悩み」の主要因は何でしょう。これはズバリ、トランプとその支持者の言動があまりに過激すぎたため(その最たるものが2021年1月6日に起きた「合衆国議会議事堂襲撃事件」です)、全体の1/3ほどいると言われる無党派が反感・危機感を抱き、トランプ推薦候補に対してNoを突きつけたということでしょう。共和党の選挙本部はトランプに選挙応援を控えて欲しいと要請したけれど、無視され続けたそうです。


その意味でも今回の選挙で特に重要なのは、激戦区でのトランプ推薦候補の当落割合です。全体ではトランプ推薦候補の当選率は高く(8割超)、メディアの一部は「トランプが次期大統領選へ足場を固めた」と評しています。でもこれ、とんでもない勘違いというか、「トランプの手品」にしてやられている構図です。


実はトランプは当選確実な共和党候補者に大量に推薦を与えているのです。でも落選しそうな候補には推薦を与えていません。残ったボーダーライン上の(当落が微妙な)候補に対する「トランプ推薦」が有効かどうかが肝心ですが、結論を言えば、有効どころか、むしろトランプ氏の推薦が「マイナス要因」になったと指摘されているのです。つまり先に指摘したように、トランプ推薦=無党派層からの投票が期待できない、という構図が多くの激戦区で表面化したのです。


こうした結果により、共和党内でのトランプの立ち場は少し微妙になってきました。これまでは共和党の予備選では「トランプ推薦」の効果はかなり強烈で、有力議員でさえ「トランプ批判」をしたために予備選を勝ち抜けずに議席を失う事態が続出していたのです。でもそうした「トランプ推薦」の効果はあくまで共和党支持者に対してのみ、ということが明らかになったのです。

まず言えるのは、2024年の大統領選挙に関しては、仮にトランプが共和党の代表候補となって戦った場合、再び敗れるということ(この見通しは以前から私が唱えています)が、かなり蓋然性が高くなってきたということです。

そしてそこから類推できるのは、共和党の幹部たちがこの先、どういう行動と方針を取るかということです。

最終的に勝ち目の薄いトランプには、2024年の大統領選挙において最終的に共和党の代表候補にはなって欲しくない訳です。しかし2023年に予定されている共和党の大統領予備選挙にトランプが本気で参戦したら、彼の共和党支持者間での人気を考えると、代表候補になってしまう可能性が高いのです。大いなるジレンマです。

そこで共和党の幹部たちはどこかの時点でトランプに「降りてくれ」と交渉を始めるでしょう。理由は年齢ということにするでしょうね。しかしトランプが(大統領本選挙においては不利だということを自覚していようとも)素直に無条件で応ずる訳はありません。きっと「邪魔するなら俺は独立派として出馬するぞ」と脅すでしょう。

もしそうなればロス・ペローの悪夢の再来です。1992年の大統領選と1996年の大統領選に立候補した実業家かつ政治家です。その2回の大統領選では保守票をペローに大いに奪われた共和党の候補、ジョージ・H・W・ブッシュおよびロバート・ドールがいずれもクリントンに敗れました。共和党としては何としてもトランプが独立派として出馬する事態は阻止しなければなりません。

そこで共和党幹部が切れるカードは何か。これは推測でしかありませんが、共和党内での何らかの特権的なポジションを与えることになるでしょう。具体的には不明ですが、共和党における「キングメーカー」としてのポジションを確保することにトランプとしても妥協するのではないでしょうか(あの我儘坊やが本当にそれで収まるのかは分かりませんが、家族を含む周囲からは強烈な説得がなされるでしょう)。

こうした共和党内のゴタゴタを考えると、本来なら2024年の大統領選は民主党が優位のはずです。でも高齢で不人気のバイデンが「次の大統領選に出る」と言っても周りから説得されて断念するでしょう。そして民主党からは幾人かの後継候補が出て、再び党内は分裂するでしょう。

前回選挙ではトランプという強烈な敵がいたから民主党は最後にはバイデンでまとまりましたが、次回はそうはいきません。多分、最後の最後までまとまらず、民主党得意の「醜い争い」(敗れた候補が勝ち残った代表候補を応援しない、批判して足を引っ張る、等)の状況になることが今から想像できます。したがって民主党と共和党の大統領選挙の行方は現時点ではさっぱり読めません。

しかし一つだけ言えます。「トランプ対バイデン」劇場の再演はあり得ません。どちらも出てこないでしょう(とはいえ最終的にトランプが独立派として出馬する可能性はまだ拭えませんが)。 特にトランプが大統領本選に出馬しないことで、2024年において(1期で終わることを納得した)バイデン現大統領の下、米国が正気を保った状態で世界政治において一定程度の指導力を維持する公算が高いことは、日本をはじめ民主国家群にはよいことかと思います。