未払い残業代支払いは物流サービスが見直されるきっかけに

ビジネスモデル

宅配便最大手のヤマト運輸が、約7万6千人の社員を対象に未払いの残業代の有無を調べ、支給すべき未払い分をすべて支払う方針を固めたとの報道が今日あった。

必要な原資は数百億円規模にのぼる可能性があることが衝撃を持って伝えられたわけだが、同時に、それだけ巨額のサービス残業が拡がっていることに利用者や世間からはショックも表明されるのではないか。

しかしこの行為は同社の改革への決意表明だと小生は考える。

宅配業界では、アマゾンに代表されるネット通販の急拡大に伴う荷量の急増と、共稼ぎや独り身世帯の急増による再配達が多いことで、長時間労働が一般化し、ドライバーも不足して、新たな3K業界として危険視されるほどになっている。その行きついた果てがサービス残業というわけだ。

とりわけ佐川急便がアマゾンの仕事を断ってから、ヤマトのアマゾン取扱量が急増し、その低収益のせいでサービス残業がエスカレートしていたとのことだ。

同社のサービス残業の実態が表面化したのはごく最近だ。昨年8月、SDだった30代の男性2人に残業代の一部を払わず、休憩時間を適切にとらせていなかったとして、2人が勤めていた横浜市の支店が、横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けたのだ。この事件を契機に、多分同社の様々な職場で同様の実態が報告され、改善が緊急課題に浮上していたと推測できる。

最近、ヤマトの労使は異例の労使協議を行っている。賃金の上昇ではなく、荷物の取扱量を減らして欲しいという現場の要請に、経営が応じるという内容なのだ。国内シェアを最重視していた同社の戦略転換だ。平行して、昼以降の午後の時間帯での時間指定を止める方向も耳にした。少々遅すぎたきらいはあるが、サービスレベルの見直しに動いていることは明らかだ。

今回の発表はそれを受けた動きだと分かる。サービス残業が広がる宅配現場の改善に向け、まずは未払い分の精算をしたうえで、労使が協力してドライバーの労働環境の正常化を進めるという宣言なのだ。

きっとしばらくすると、アマゾンとの価格交渉の結果が分かり、その取扱い方針が発表されよう。荷主の言うことには無条件に従うという業界の悪癖が最大手の反乱によって巻き起こるだろう。それと同時に、物流サービスにはコストが掛かるという当たり前の話が世の中に普及し、「配達無料」という嘘の訴求は世の中からどんどん減るだろう。