剪定されない新規事業開発は“根腐り”する

ビジネスモデル

新規事業案件が湧き出るに任せる会社と、継続検討案件を絞る会社。「歩留まり」には大きな違いが出る。新規事業にも思い切った「剪定」(せんてい)が必要だ。

広い意味で同業かつ似たような規模のA社とB社は、新規事業に対する経営者の態度と検討体制が対照的だ。

アイディアマンであるA社の経営者は事業ネタを色々と思いつくので、優秀な部下を担当者に選んではプロジェクトを興させ、その企画を詰めて事業に育てるよう命じている。役員にも新規事業と新製品をどんどん開発するよう叱咤激励し、その成果を人事評価にも取り入れると公言している。

お陰でA社の企画担当者たちは常に幾つかの新規事業プロジェクトを抱えており、社内外との打ち合わせと市場データの収集・分析に余念がない。A社の会議での議論は実に活発で社内は活気にあふれていると評判だ。

一方、研究肌のB社の経営者はもっぱら業務プロセスの改善に注力し、自ら新規事業のアイディアをひねり出すことはあまりないが、役職員には新規事業の創出を積極的に推奨している(この点はA社と同じ)。

B社がA社と大きく違うのは、プロジェクトを組んで正式に取り組み始めてから検証を踏まえて試行されるまでに10ケ月を超えてはならないという社内ルールを設定していることだ。それまでに立ち上がらない場合、原則的にプロジェクトでの検討を中断するという厳しさだ(ただしプロジェクト解散後もスカンクワーク方式で継続しているケースもあるらしい)。

その結果、B社の企画担当の人数はA社の半分程度しかいないにもかかわらず、担当者が抱えている新規事業のプロジェクト数は1つないしは2つ程度に収まっている。全体としてみると、同規模でありながら取り組んでいる新規事業はA社の数分の1だ。

しかしながら最近10年ほどの会社全体に占める新規事業の売上貢献割合を見てみると、A社ではわずかしかないのに対し、B社では常に一定以上を示している(同社では3年以内に立ち上がった事業を新規事業に分類している)。しかも新規事業群トータルでも着実に利益を出しており、会社全体での増益基調への貢献が認められる。

要はA社に比べB社の新規事業は「歩留まり」が圧倒的によいのだ。なぜだろうか。

A社とB社の人材レベルが同等と仮定したとき、一番有力と考えられる要因は、B社では担当者一人が抱える企画件数が少ない分だけ個々の案件に集中することができ、企画の品質も上がりやすいということだ。

集中できるということは、同時にスピードも上がり、その分だけ市場に早く出すことで競合に先行できる可能性も高まる。「10ケ月ルール」のせいでB社の担当はのんびりとできないため、検討スピード向上効果はさらに高まる。それに対しA社では進捗報告の予定も厳しく求められないし、ましてや時限制でもないため、決着をズルズルと先延ばししがちになるのだ。

もう一つ指摘しておきたいのが経営者の関与度合の違いだ。

A社はアイディア出しには経営者自らが主体であることが多いが、その後はどんどん興味を失ってしまう傾向が見られるそうだ。忘れた頃になって急に「あの件はどうした?」と担当者に状況報告を求めると、担当者も抱えている案件のどれの話か分からなくなって「あの件とはどの件でしょう?」などと「やぎさんゆうびん」じみたやり取りをすることすらあったらしい。

あまりに多くの案件があるため、経営者の頭の中で各案件が気に留めてもらえている割合はごくわずかとならざるを得ない。当然ながら、A社の経営者が各案件に対し深い知見を示したり適切な方向づけをしたりすることは現実的に難しい。長い期間かけても立ち上がらない企画は一種の「放置プレイ」状態になってしまうとも聞いた。

それに対し、B社の経営者は自らアイディアを出すことは滅多にないが、企画プロジェクトの報告は定期的にさせ、その場で適切な示唆(「指示」ではない)を与えている。そして重要な仮説を検証しているかをきちんと確認させ、見込みが少ないと見ると10ケ月を待たずに中止・撤退または縮小という厳しい判断を下す(とはいえ多くの場合、命令というより担当者自らが判断するよう水を向けている感じだ)。

プロジェクト中断になった担当者は意気消沈しているかと思いきや、心境を尋ねると「次の企画で頑張ります」とさばさばとした感じで答えてくれた。「市場で検証した結果を受け入れる」「全力投球でダメだったら仕方ない」という潔さが感じられて好感が持てたことを覚えている。