尖閣諸島問題は国際司法裁判所へ付託せよ

グローバル

微妙な歴史的背景がある上に、特に領土問題が前面に出てくると、どこの国もまず国民・メディアがナショナリズムを刺激される。政治家が妥協しようとすると「弱腰」呼ばわりされるため、互いに振り上げた手の下ろしようがなくなってしまう。しかしこの論争が生じるために中国で反日デモや暴動が吹き荒れ、日中間の交流が後戻りする状況は決して前向きでないし、ヘタをすると戦前の繰り返しにならないとも限らない(ご存じだろうか、こうした反日暴動が通州事件を生んだことを。そしてそれが日中戦争の遠因になったことを)。

そこで提案がある。尖閣諸島の領土問題を日本から率先して国際司法裁判所 (ICJ) へ付託するのである(韓国との間の竹島問題で取り上げられたので、ご存じの方も結構いるだろう)。こう云うと、「尖閣諸島は歴史的にも日本の領土であり、日本が実効支配している。したがって領土問題が存在しないというのが日本の立場だ」という官僚的反論が返ってこよう。しかし尖閣諸島に関し「領土問題が存在しない」というのは欺瞞以外の何物でもない。現に日中間の最大の問題であり、大きな火種ではないか。

また、「日本が実効支配しているのだから論争の嵐が収まるのを待っているのが一番賢いやり方だ」という国際政治の専門家も多い。しかしそれも視野狭窄である。論争は収まるどころか何度となく激化するだろう。こんなふうに何度も上陸騒ぎが繰り返され、その度に非難合戦をするのが賢いやり方だろうか。ましてや中国の場合、実力行使による占拠という事態さえ将来は想定され、その先にあるのは紛争そして戦争という大きなリスクである。そうした最悪のシナリオは避けたいではないか。ICJへ付託されてしまえば、中国人民もへたに騒ぎを起こすことが自国に不利になることを恐れ、今のような挑発行為は急減するだろうし、何より中国政府が全力を上げて押さえ込むだろう。

韓国の場合と違って、日本がICJへ付託すれば中国および台湾はそれぞれ拒否することはないだろう。彼らは失うものはないのだから。当然、日本とするとせっかく実効支配している尖閣諸島を、ICJの判断によっては中国や台湾に奪われる可能性がゼロではない。そのリスクは確かにある。しかしながら歴史的経緯(日本人が暫く住んでいた)と中国側の尖閣諸島に関する記述(「魚釣島は琉球の云々」)という歴史的事実は圧倒的に有利である。日本は自信を持ってよい。また中国側は台湾との連携が難しく、有効な反論を揃えることも難しいだろう。

それに韓国との間の竹島問題、ロシアとの間の北方領土問題に関しては、いずれ日本からICJに付託することになろう。その際、韓国およびロシアに対し拒否しにくいプレッシャーを与えることができる。

併せて、国際社会に訴える日本の立場を考えてみよう。実効支配している尖閣諸島は知らん顔しておいて実効支配されている竹島と北方領土だけは不法占拠だと叫んでも、論争相手から「ダブルスタンダード」だと反論され、国際社会からも非難される恐れがある。それよりも、「日本は暴力には訴えないし屈しもしない。実効支配の有無にかかわらずいずれのケースも正々堂々と主張し、国際社会の公平な判断に委ねる」という公明正大なスタンスを主張するほうが圧倒的に有利である。そしてこの3つの領土問題が当事者同士の紛争から手離れし、ましてや解決に向かえば、3国との間の国民和解のチャンスは非常に大きくなる。

こうした諸々を考えれば、真っ先に尖閣諸島問題に関しICJに付託するというのが、日本にとっての期待利益が最大となる、最も戦略的なやり方だという主張に同意してくれる人たちも多いのではないか。