奇跡のパン屋は地域のコミュニティー

BPM

美味しいパン屋が近所にあれば誰でも嬉しいに決まっている。我が家でも朝ごはんにパン食が週2~3日のペースだ。しかし結構、どこのパン屋で買うかは浮気する。

2月4日放送のカンブリア宮殿は「地元にあった奇跡の店」SP 第1弾『地域住民の幸せを膨らませる奇跡のパン屋』。この日フィーチャーされたのは千葉県船橋市周辺に展開するベーカリーチェーン「ピーターパン」の社長、横手和彦(よこて かずひこ)さん。

「この地域に住む理由のNO.1」「この店があるから引っ越ししたくない」。地元住民にここまで言わしめる大人気のパン屋、「ピーターパン」。人気の理由はまず、徹底的に“焼きたて”にこだわっていること。しかし地元客からここまで愛される真の理由は、家族皆が来ても楽しめる店づくりだ。コーヒー無料のテラス席は、地元住民の憩いの場。さらにクリスマスや餅つきなど季節ごとに採算度外視でイベントを開くなど、街のコミュニティーの場となっているのだ。これには感心するしかない。お蔭で6店舗ながら年商18億円。1店舗あたり、通常のベーカリーの10倍という驚異的な売り上げを誇る。

ピーターパンの店内には100種類以上のおいしい焼きたてパンが客を待ち構え、客が行列をなしている。クリームパンも焼きたてを提供、とろけるクリームがおいしそうだ。1日1000個を売ることもあるカレーパンは、1度に揚げるのは12個まで(たくさん揚げると冷めてしまうから)。ピーク時には5分おきに揚げるという。しかも客がすでにトレーに取ったパンも、焼きたてと交換するという徹底ぶりには感動してしまった(交換した冷めかけたパンは切って、試食に廻す)。

外のテラス席ではこだわりブレンドのコーヒーも無料で提供し、客に熱々のうちにパンを食べてもらう。そのテラス席が客と客との会話を生み、地域の輪を広げている場にもなっている。クリスマスには、地元の子供たちを集めて社長自らプレゼントを配る。年末には餅つき大会、といった具合に、季節ごとに地元住民のためのイベントも開催している。

そんなピーターパンはただのパン屋ではなく、地域のコミュニティーとなっている。だからこそ客から言われる。「船橋に住む理由のNO.1。引っ越しできない」と。商売冥利に尽きる話だ。

業界から“奇跡のパン屋”とも呼ばれる店を作り上げた横手社長は、しかし、元々はそんなにパン好きではなくむしろラーメン好きだという。とにかく異色の経歴だ。瀬戸内の島のみかん農家に生まれ、最初は愛媛の信用金庫に勤めた。しかし仕事が向かないと感じた横手氏は20代で退職。上京し、西麻布でバーを開店した。好調な売り上げだったにも拘らず、子供に働く姿を見せてやりたいという思いが募り、友達に教えてもらえるからと、今度はパン職人の道へ移った。

技術の未熟さをカバーするため、開店当初から焼きたてにこだわったお蔭で人気に。その後も業容拡大し、宅配ピザチェーンも展開、成功。しかし売上だけを追う自らの姿を嫌い、その宅配ピザからあっさり撤退し、再びパン屋に専念したのだ。最初のパン屋によく通ってくれた主婦の嬉しそうな顔を思い出して、矢も楯もたまらずの決断だったという。そんな紆余曲折の後、やがて今のスタイルのピーターパンに辿り着いたのだ。なかなか不思議な経歴だ。

横手社長、とにかく笑顔がいい。福顔だ。そして社員の向上心を高めるため、新商品の提案は全従業員、誰でもOKとしている。そしてパンづくりや経営の勉強会を開き、様々な研修の場を提供している。独立したい従業員までサポートしている。70歳を超えた社長ご自身も、経営者が集まる勉強会などに頻繁に顔を出す。トップもスタッフも常に学び続けるというのがこの会社の真の強さなのだと感じた。

こんなパン屋が地元にあったら嬉しくてファンになるのは間違いない。