外食業界の本質的課題は何か

BPM

7月9日(火)に放送された「ガイアの夜明け」は「人を育てて勝つ!~外食業界…人材争奪戦の今~」。深刻な人手不足に悩む外食業界がどうやって人材を獲得し成長していこうとしているかがテーマだった。この背景にあるのは、外食産業が2009年から4年連続で「行きたくない業界ワースト1位」だという事実である。確かに、一種の3K職場なのだろう。

こうした状況の中、独自の方法で人材を獲得し業績を拡大している企業として、大手寿司チェーンの『すしざんまい』と居酒屋チェーン「サブライム」を番組は採り上げた。

全国に49店舗を構える寿司チェーンの「すしざんまい」。『寿司を年中無休で朝まで提供』という営業形態が好評で、繁華街の店舗では深夜でも客がごった返すことが珍しくないという。小生も何度か利用させてもらったことがある。同チェーンは今後も全国に店舗を拡大していきたいと考えているが、大きな課題があった。それは寿司職人の不足。技術のある職人を中途採用しようとしても、深夜営業を嫌ってなかなか確保できないのだ。「ウリ」が人材獲得の障害になるという、悩ましい状況だ。

そこで自ら職人を育てる学校「喜代村塾」を開校させた。3ヵ月間、寿司についての基礎技術をみっちり学ばせる一方、「すしざんまい」の店舗にとって必要な「英語の研修」や「接客術」も学ばせるという。番組では30歳近くまで海外で様々な職を転々としていた職人希望者にスポットを当て、彼が喜代村塾で修業して苦労しながら合格して同社の従業員になるまでを追った。合格したとき、「店長を目指したい」彼は目を輝かせていた。

もう一つの「サブライム」は、2005年11月に1号店をオープンさせてから、わずか7年で店舗数200を超え、売り上げ100億円規模に成長した居酒屋チェーン。店は活気にあふれ、客でごった返している。成長の原動力となっているのが、やる気のある人材の確保だ。その秘密は、獲得した人材を次々に店のオーナーとして独立させていくという独自の手法にあった。会社は、店舗選び、運営、メニュー開発など様々な面で独立したい社員をバックアップする。現在までに50人近くのオーナーを育て、将来的には1万人のオーナーを育てたい、という同社の若き社長。メニューや店の運営など、そんなに簡単に教えることができ、そんなに簡単に学ぶことができるのだろうか。番組ではそこまで突っ込んでくれなかったので、不思議なまま終わってしまった。

見終わって、素朴に思った。外食業界が人材獲得に苦しんでいるのは所詮、労働生産性が悪く、給与が安過ぎるからではないのか。その部分に思い切ってメスを入れない限り、独立をエサに人材を獲得し続けることは継続性がないように思う。

フランチャイズ方式、セントラルキッチン方式という2大イノベーションは確かに効果的だったが、それだけで大半の外食業態が何とかなるような甘い状況ではない(その方式が向かない業態もある)。ましてやアルバイト依存と社員でありながらダンピング的に安い給与水準と、「儲からないメニューの思いつき開発」という不毛な策ではない。

以前、丸亀製麺の「讃岐釜揚げうどんチェーン」に関してコラム記事を書いたことがあるが、その際に小生が関心したのは同社の合理的精神である(表面的な言葉尻を捉えた批判コメントが幾つかあったが、「いいね」を圧倒的多数いただいたことは、小生の指摘に共感してくれた方々が多かったことを示している)。あのチェーンが一つのヒントを示している。

外食産業における本質的な部分での新しいイノベーションは、導線や作業の科学的なプロセス分析と、手間を掛けた価値の高いスープ・だしという共通プラットフォーム開発、およびその上での新鮮な素材という共通部品の組み合わせによる新規メニュー開発手法といった工業手法の導入ではないか。つまり近代化である。いずれこうしたアプローチによる革新的なチェーンが続々と生まれてくる日を楽しみにしたい。