メディカル・イラストレーションが医療現場を変える

BPM

TBS「夢の扉+」1月27日の放送は「人体の臓器や細胞を3DのCGで超リアルに再現!」と題して、科学的根拠に基づいた正確な3D CGを作画する“天才”サイエンスCGクリエーターの活躍を追う。彼の名は瀬尾拡史、27歳。現役の東京大学医学部附属病院の研修医である。

“心臓の周りには、どのように血管が張り巡らされているのか?”“肺への空気の通り道、『気管支』はどんな構造をしているのか?”日本では最近でも、平板な2次元の医学書でしか人体構造を描けず、医師はそれで座学をしているのが実態だ。瀬尾氏は国内では“未発達”の、メディカル・イラストレーションの分野に革命を起こそうとしている。CGの可視化により医療技術が飛躍的に進むと期待されている。

番組の冒頭で見せるのは、細かく枝分かれする『気管支』。瀬尾氏が自らの肺のCT画像450枚を基にCG化に成功した気管支が、ディスプレイ上で自由自在に動き、多角的に検証できる。普段、気管支を見慣れている現役医師たちによる検証で、実用化に耐えるとのお墨付きを得た。

瀬尾氏は「150%努力」の人。東京大学入学後、医学部で学ぶ傍ら、バレーボール部もやりながら、CGの専門学校へも通ってスキルアップに励む(スーパーマンのようだ)。さらには、大学に自分を留学させるよう嘆願書を出し、説得の際にたんかを切る。「僕を今、留学させないと、東大医学部はきっと後悔する」と。そしてアメリカ・メリーランド州のジョン・ホプキンス大学へ留学し、大学の医師と一緒に現場で造形を学び、最先端メディカル・イラストレーションを身につける。

帰国した彼は「細胞の世界」というCG作品を発表し世の注目を浴びる。専門的正確性はもちろん、音楽なども組み合わせ、素人でも楽しめるものだ。そのモットーは“サイエンスを、正しく、楽しく” 。その後は国内唯一の専門家として活躍を続ける。

彼が一躍注目を集めたのが4年前。初めての「裁判員裁判」の時に、専門用語が並ぶ鑑定書の内容を、裁判員も理解できるようCG化して欲しいとの依頼が最高検察庁から届いた。そして彼が再現した、死因をめぐる法医学CGは審理に採用される。画期的な瞬間である。

瀬尾氏は単純なCG化だけでは満足しない。3Dプリンターにより実物大の気管支を造形した。その上でCG画像と連動させてナビゲーションもできるようにしてある。これで現役医師たちがこの気管支模型を使って内視鏡操作を「練習」できるのである。内視鏡を素早く動かし、問題の部位に素早く辿りつき、手術する。患者の体力が持つ間にこれらの動作を素早く行い、焦りによる失敗を減らすには、内視鏡操作の「訓練」が一番。これは分かりやすい「お役立ち」である。

最先端技術に注目し、自らのスキルと知恵を使いその使い方を進化させ、世の中に役立つ。技術者らしい生き方である。