グルメサイトは飲食店の味方なのか?

ブログビジネスモデル

(以下、コラム記事を転載しています)

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新型コロナウイルスにより客足を奪われて苦境に陥っている飲食業界。実は以前からグルメサイトという存在に悩まされ続けており、今回の「GO TO EAT」キャンペーンでも悩みは続きそうだ。

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少し前にコロナ禍で大変な目に遭っている飲食店を悩ませることの一つとして「無断キャンセル」の問題をコラム記事で採り上げた。それと変わらないくらい飲食店が悩むのが、グルメサイト(飲食店予約サイト)への様々な手数料だ。利益率の低い飲食業界にとって、元々かなりの負担だったのだが、来店客の激減に悲鳴を上げる中で本当に取引を続ける価値があるのかという疑問が限りなく大きくなっているのだ。

「3大グルメサイト」と呼ばれる食べログ、ぐるなび、ホットペッパーグルメ。その手数料は、1)月額固定のサイト『掲載料』(いくつかのプランに分かれている)と、2)ネット予約した来店客1人当たりの『送客手数料』で構成される。

食べログの場合を例にしよう。『掲載料』は1万円から10万円とかなり幅がある。『送客手数料』は一人当たりランチで100円、ディナーで200円。例えば月額2.5万円の掲載プランで契約した飲食店に、ひと月で昼に40人、夜に50人がネット予約で来店した場合、合計3万9千円の手数料が発生する(いずれも税抜き)。

仮にランチが平均単価千円、ディナーが5千円とすると、該当する売上は29万円。材料費・人件費・家賃・光熱費など引いて残った利益を考えると、その手数料の価値は本当に見合うものか、かなり微妙である。それでも競合店の多く、そして大半の消費者がグルメサイトを利用する限り、飲食店としては我が身を削ってグルメサイトに高い手数料を支払うしかないというのがコロナ禍以前の状況だったのだ。

実は今年3月、公正取引委員会がある調査報告書を発表しており、その中でグルメサイトと飲食店の間の取引実態がかなり不透明なことや、独占禁止法違反となる恐れがある事例も少なくないことを指摘している。

多くのグルメサイトでは、高額な掲載料を支払っているほど、その飲食店は検索上位に表示される。同じ料金プランの場合は、ネット予約の空席数や閲覧者数、ポイント・プログラムへの参加の有無などで表示順は決まるとされる。こうした実態は、サイトを利用する消費者には公開されていない。だから消費者としては検索上位に表示されている店ほどお奨めだと判断しがちになる。

店とするとグルメサイトから「集客のために表示順位を上げなければならない」と言われると、高額プランを契約せざるを得ない。それゆえ公取委は「優越的地位の乱用となる恐れがある」と指摘している。

しかし利用する消費者が表示順位以上に重要しているのが口コミによる評価点である。つまり、店を利用した消費者が料理や店のサービスなどを評価して付ける点数だ。この公正性が疑わしいのだ。

グルメサイト側は「飲食店が支払う手数料の有無は点数には影響しない」と主張しているが、建前に過ぎないと感じる向きは多い。「有料加盟店をやめたら大きく点数が下がり、再び有料に戻したら点数が戻った」などという不快な経験をした飲食店の例が、同報告書にも記載されている。それはメディアの記事にも少なからずあるし、小生も店の人から聞いたことがある。

いち消費者としてグルメサイトを利用する立場で見ても、総合点と個々の評価点が釣り合っていないケースは少なくない。

グルメサイト側は「やらせレビューに攪乱されないよう、単純な平均点にはしていない」「信頼すべきレビュワーによる評価を重んじている」「不正を排除するため算出アルゴリズムの詳細は開示できない」と主張するが、それにしても先の「有料加盟店をやめたら大きく点数が下がり…」という事態が時々起きていることを考えると、あまり説得力はない。

こうした背景の上で、飲食業界にはもう一つ大きな変化が生じていた。それはSNSの普及で、知人や有名人のお薦めに応じて店を知ったり興味を持ったりする若い人が増えたことだ。

彼らはインスタグラムやツイッターで知った店をGoogleなどで検索して、グルメサイト抜きで予約するようになっている。この場合、店とすると広告費も送客手数料も払う必要がないので、とても有難い。

だから飲食店とすると、「映(バ)えるよねー」とか言いながら出てきた料理をスマホでカシャカシャと撮っている若い人たちは、(いくら年配の人たちが「マナーがなってないわねぇ」と眉をひそめようとも)お店の宣伝を無料でしてくれている「有難いお客様」なのだ。

こういった新しい潮流もあり、そして馬鹿にならない料金なのにグルメサイトがコロナ禍で苦しむ飲食店の助けになっていない現実もあり、冒頭で言ったようにグルメサイトへの減額要請や解約申し込みが相次いでいるのだ。

当然ながら、それに抵抗する動きも出ている。飲食店の苦境を救うための官民一体型の需要喚起キャンペーン「GO TO EAT」が9月から立ち上がることが発表されたが、その策の一つ「オンライン飲食予約(によるポイント付与)」はグルメサイトの利用が条件になっている。

これは、グルメサイト経由でキャンペーン参加の飲食店を予約し来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイントを付与するものだ。

ランチだと500円分/人、ディナーだと1,000円分/人のポイントが予約した人数に応じて予約者に付与される(最大で10人分の10,000ポイントが上限)。付与されたポイントは後日、キャンペーンに参加している飲食店を利用する際に使える。ポイント付与の期限は2021年1月末まで(使用期限は2021年3月末まで)とされているものの、消費者にとってはなかなか魅力的だ。

この「オンライン飲食予約」キャンペーンに飲食店が参加するには、3つの条件が必須だ。一つは、感染予防対策をしないといけないこと(これはある意味、当然だ)。もう一つは、事前登録しないといけないこと(これも当然だ)。最後の一つが問題で、対象となる「オンライン飲食予約事業者」(グルメサイトのこと)と契約していないといけないことだ。

今までグルメサイトと契約していない店や、コロナ騒ぎを契機に契約解除した店は改めてどこかのグルメサイトと契約する(したがって広告掲載や送客手数料を払う)必要があるのだ。このキャンペーンが「飲食店の救済ではなく、グルメサイトの救済が本当の目的だ」と揶揄される所以だ。

ちなみにもう一つの「(プレミアム付)食事券」キャンペーン(購入額の25%分を上乗せする)のほうは、オンライン予約は不要なので、参加するにあたってグルメサイトとの契約は必要ない。

いずれにせよ、新型コロナウイルスによる苦境をなんとか凌ごうと頑張っている飲食店にとって、希望の綱に見えた「GO TO EAT」キャンペーンは新たな悩みをもたらしそうだ。