グンゼ、120年を生き抜く超オモシロ企業

ビジネスモデル

4月17日に 放送されたTV東京系のカンブリア宮殿は「あったかくて最先端!肌着の王者グンゼ 知られざるサバイバル経営」でした。この会社、昔あることでご縁があったので、興味深く拝見させていただきました。

グンゼといえば肌着の代名詞ですね。男性用肌着ではシェア16%と、トップを守り続けています。でも売上1300億円の内訳を見てみると、肌着類は全体の約半分に過ぎません。残りは、肌着とは一見何の関係もないビジネスで稼いでいるのです。こんなに多角化が進んでいるとは驚きでした。そのベースは危機感だといいます。

1896年、地域産業の振興を目的に、「郡是製絲」という生糸メーカーとして創業したグンゼ。「国是」「社是」と同様に郡の「郡是」に由来する社名だということも初めて知りました。1900年代初めに化学繊維のレーヨンが爆発的に普及すると、生糸は壊滅的な打撃を受けたのです。

ここから生き残りをかけた新規事業の開拓が始まり、この会社に「安住しない」というDNAが埋め込まれたとのことです。その結果、生糸メーカー・グンゼはやがて肌着メーカーとなり、ストッキングの包装フィルムから様々なフィルム製造へと展開していくのです。以来、グンゼの歴史は、時代を生き抜くための試行錯誤と挑戦の連続だったとのことです。児玉和社長は語っていました。「現状への安住は、後退を意味する」と。

多角化の代表的事業がフィルム事業。食品やペットボトルなどの包装用のほか、タッチパネル用のフィルムを製造しているのです。熱風を当てると、包装フィルムがペットボトルにぴたりと吸いつくように張り付く様子が映されていました。この技術は国内ではほぼ100%シェアだとのこと。ぜひ海外にもばんばん売って稼いで欲しいですね。

さらには体内で溶ける医療用の糸といった最先端技術まで手掛けています。繊維で培った技術が生んだ、体内で溶ける糸から作る「縫合補強材」という医療品によって、アメリカの大手医療機器会社と提携を果たしたのです。さらに、この溶ける糸を使って再生血管も開発しています。すでにアメリカのイェール大学では、4歳の女の子が命を救われており、その少女が元気に回復した様子も映されていました。日本の技術が世界で人命を救うというのはいつ観ても誇らしいですね。

小生は多角化の行き過ぎや落下傘的な展開には批判的な経営コンサルタントです(だからこそ「フォーカス喪失の罠」という本を書きました)。でも技術など自然なつながりがあって、会社の体力に合わせた範囲で常に拡張する努力を続けることはむしろ当然だと考えています。グンゼの場合は非常に自然な形で「自分たちにできること」を模索し、時代のニーズに合わせて適切な速度で展開している感じがします。

番組の中ではグンゼのユニークで家族的な雰囲気がよく伝えられていました。「人は財なり」と謳い、社員を大切にするグンゼには、親子3代グンゼ勤務、という家族までいるのです。社員を大切にしてきた結果ですね。国家/地方公務員や政治家、医者、電力会社などの「おいしい」仕事では時折ある話なのですが、普通の会社では3代となるとざらにある話ではないでしょう。

グンゼはちょっと変わった会社だというのも感じました。月曜から金曜日まで、始業の前には毎朝違う歌を歌うのです。毎朝社歌を歌うのは松下でもやっていたので、特に変わっているとは思いませんが、毎曜日違う歌を歌うのですから、これは変わっています。

社内のいたるところに標語が貼ってあるのを、番組は不思議そうに放送していましたが、これも伝統のある会社ではよくある話です。しかしその中身はちょっと変です。例えば「三つの躾(しつけ)」。そこには「あいさつをする」「はきものをそろえる」「そうじをする」。ほとんど幼稚園か小学校低学年の雰囲気です。実際、工場も昔の小学校のような随分懐かしい雰囲気です。

工場を訪れると、行きも帰りも社員たちが立ち上がって見送る、というのは古き良き社風です。本来なら全ての会社がそうあるべきだと小生なんかは思うのですが、実際にはごく少数の会社しか実行できていません。

全体的に、120年を生き抜く超オモシロ企業という、好感を持てる内容でした。