求められる仮説検証(6)事前検証と事後検証は車の両輪

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(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************

仮説検証の必要性について改めて訴える「求められる仮説検証」シリーズの第6弾。これまであまり強調してこなかった「事後検証」について述べたい。

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これまでこの「求められる仮説検証」シリーズでは、戦略仮説に対する「事前検証」を中心に論じてきた。新しい戦略や解決策を立案した際、その妥当性をあらかじめ点検し、実行前に必要に応じて手直ししておくことの重要性を、繰り返し強調したかったからである。

従来の日本企業の戦略策定や戦略的プロジェクトの推進では、「事前検証」を軽視し、いきなり実行に移す傾向が強かった。その結果、効果が出ない施策が走り出してしまったり、現場で修正不能のまま頓挫したりする例が少なくなかった。

この反省から、本シリーズの前半ではあえて「事前検証」に焦点を当て、戦略立案段階での仮説点検の必要性を掘り下げてきたのである。

事後検証の重要性】

しかしここで注意しておきたいのは、戦略仮説の検証は「事前検証」だけではないという点だ。むしろ、それに劣らず重要なのが「事後検証」である。

戦略の成否を確かめ、次の改善につなげるためには「事後検証」が不可欠だ。事後検証をしないままでは、組織はいつまでも同じような失敗を繰り返し続ける恐れが高い。にもかかわらず、多くの企業では実行後すぐのタイミングで検証をせず、数年後になってから「そういえばあの戦略は失敗だった」と総括するケースが目立つようである。

これでは、関係者の記憶は薄れ、判断の経緯も不明瞭になり、場合によってはキーパーソンがすでに社内にいないという事態すら起こり得る。なぜその戦略や解決策が選ばれ、どのような実行上の不備があったのかを、正確に把握できなくなってしまうのだ。

【日本企業にありがちな問題点】

筆者が相談を受けた企業の中にも、まさにこうした「遅すぎる事後検証」の典型が存在する。

ある大企業では、数百億円規模の新規事業が軌道に乗らず、ようやく撤退を決めたのは開始から5年後だった。振り返りの会議が開かれたものの、担当役員はすでに引退し、当時の現場リーダーも大半が退職済み。「なぜその市場に参入したのか」「当初の計画のどの点が甘かったのか」といった肝心な問いに答えられる人が誰もいない、という事態に陥っていた。これでは検証というより、単なる「慰霊祭」である。

【望ましい実践のあり方】

では、どうすればよいのか。鍵は「事後検証を事前に設計する」ことにある。戦略や解決策を実行する前に、あらかじめ「どの時点で、どのような方法で検証するか」を決めておくのだ。例えば以下のような方法が考えられる。

1.KPIレビュー

戦略実行時に設定したKPIを、四半期ごとや半年ごとに定点観測し、未達の理由を掘り下げる。数値の達成度を確認するだけでなく、外部環境の変化や社内体制の問題といった、戦略仮説の前提となった背景要因を分析することが肝心だ。

2.アフターアクションレビュー(AAR

米軍などで行われる仕組みだが、ビジネス向けにも応用できる。

  • 当初の計画は何だったか
  • 実際に起こったことは何か
  • なぜ違いが生じたのか
  • 次にどう活かすのか
    という4つの質問をオペレーション(作戦行動)実施直後にチームで検討する。短時間で具体的な学びを抽出できるのが利点だ。

3.第三者評価

外部の有識者や別部署を巻き込み、バイアスのかからない評価を行う方法。内部の関係者だけでは見落としがちな構造的な問題を浮き彫りにできる。特に大規模プロジェクトでは有効である。

4.ナレッジ化と共有

検証の結果を「報告書」で終わらせず、知識として形式知化し、社内のナレッジベースに蓄積する。これにより、別部署や次世代プロジェクトにも学びを引き継ぐことができる。

事例:ある大手企業の取り組み】

弊社のクライアントである大手企業では、新製品投入のたびに必ず「ローンチ後1年間のクォーター(四半期ごとの)レビュー」を実施している。販売実績、顧客フィードバック、サプライチェーンのトラブル有無を整理し、責任者が経営層に報告するのだ。

結果として「不具合が小さいうちに修正する」「次の製品企画に素早く学びを取り込む」仕組みが定着している。担当者にとっては面倒な側面もあるが、組織全体の学習スピードは格段に高まった。

【結び】

戦略仮説の検証は、「事前」と「事後」の両輪で初めて機能する。事前検証で立案の質を高め、事後検証で実行の学習を積み重ねる。この二つを車の両輪のように回すことこそ、戦略の成熟と組織能力の強化につながる。

ここで重要なのは、「事後検証を事前に計画しておく」ことだ。実行直後にレビューを行えば、問題点を迅速に修正でき、組織は同じ轍を踏まずに済む。検証の仕組みを内蔵させることで、「やりっ放し文化」を断ち切り、学習する組織への転換が可能になる。

これまで強調してきた「事前検証」に加え、今回述べた「事後検証」の仕組みを組み込むことで、企業は戦略策定を単なる一過性の儀式に終わらせず、進化し続ける実効性あるものへと育てていくことができるだろう。