ブラジルは生体認証システムの実証実験国

グローバル

11月21日(木)のNHK「ワールドWave Tonight」は「ブラジルで広がる生体認証システム」。非常に興味深いものだった。

指紋や手の血管などをもとに、個人を識別する生体認証。この生体認証が世界で最も普及している国の1つが、意外なことに(あまりハイテクイメージがない)ブラジル。

生体認証の普及拡大は、私たちの生活に何をもたらすのか。“生体認証大国”ブラジルが教えてくれる。スポーツジムの入り口で会員証を提示する必要はなく、指をセンサーに置くだけでジムに入ることができる。会員証を忘れたり、紛失したりする不安がなくなったと好評だ。客「生体認証なら不正使用されることもないし、安全なので、みんなにとっていいことです」と。

バスに乗る時も、生体認証。バスの定期をセンサーにかざすと、センサーの上にあるカメラが本人の顔を撮影。撮影データはバス公社に送られ、登録された顔写真と照合し、本人かどうかを確認。別人だと判明した場合、不正乗車として定期は使えなくなる。バス公社 広報担当者「不正利用が多かったのですが、これで不正乗車がなくなりました」。

ある大手銀行は今年(2013年)1月、すべてのATMで生体認証システムを導入。カードがなくても利用できる人は1,400万人に上る。2014年に行われるサッカー・ワールドカップに向けても、会場に設置されたカメラの顔認証システムによってフーリガンを特定し、排除しようとしている。選挙の投票も指1本かざすだけ。生体認証は生活の隅々に浸透している。

なぜブラジルで生体認証が広がっているのか。それは、多発する犯罪の防止。プライバシーよりもセキュリティーが大切だというお国柄なのだ。しかも経済成長の結果、インフラをリニューアルする機会が多く、最新のセキュリティーシステムが導入されている。ワールドカップやオリンピックなど特別な投資の機会も多く、システム開発がホットになっており、すでに開発されている優れた生体認証技術が導入できるチャンスがある、と大学教授が解説していた。

普及拡大を続ける、生体認証システムは5年後には、世界全体でおよそ2兆円の市場になると見込まれている。ブラジルは、国内で蓄積されたノウハウを生かし世界の市場に打って出ようと、技術開発に取り組んでいる。いわば国家戦略なのだ。

新たな問題も起きている。今年3月、指紋で勤務を管理しているサンパウロ郊外の病院で職員がシリコン製の指を偽造し、出勤したように装い、不正に給与を受け取っていたとして、関係者が逮捕された。生体認証の情報の漏えいに警鐘を鳴らす専門家もいる。サイバー攻撃で、生体認証に必要な情報が流出する恐れもある。情報技術の専門家が「本人から盗むより、システムを攻撃する方が簡単です」とコメントしていた通り、実は盗む側からすれば効率的なので、社会的なリスクは急速に高まる。もし生体認証に必要な情報が盗まれると、財産までもが危険にさらされる。情報技術アナリスト「システムによって安全性に差があるので、システムの普及によって、セキュリティーが甘いところから情報が簡単に盗まれると、全てのセキュリティーが危なくなる」。

専門家によると、犯罪防止の対策は3ステップ。まず、本人の情報を入手しにくくする。その情報を持ったような偽物を造りにくくする。偽物だったら確実にはじいてくれる、優れた生体認証システムが必要だということ。

それから(仮に精巧な偽物が造られたとしても)それを行使しにくくなるような環境づくり、運用。例えば、周りに人がいるというような状況。何か不正なものを提示しているのが、すぐにばれやすいということから、やりにくくなる。

さらには、生体認証情報を預けておく中央のデータベースからサイバー攻撃等によって情報が漏えいしないような管理体制。あるいは一部分が漏えいしたとしても、それが大規模に波及しないようにする、技術的対策が考えられているとのこと。

実は日本のN社はこの技術で世界をリードしている(これは番組とは関係ない)。それをベースに世界戦略を描けないかとの野望もあるらしい。N社に限らず、こうした技術開発・研究と、ブラジルなどでの「実証実験」を組み合わせて、犯罪を防止できる安心・安全な技術として日本では運用してもらいたいものだ。