(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
ビジネスの基本とされてきた「PDCA」が、時代遅れだと言われ始めて久しい。「これからはOODAだ」「いやSTPDだ」と、新しいフレームワークが次々と提唱されている。しかし、長年企業の改革現場で汗をかいてきた者からすれば、これらは「言葉遊び」に過ぎないように映る。
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マネジメントサイクルの「戦国時代」
「PDCA」を知らないビジネスパーソンはいないだろう。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)。このオーソドクスなサイクルを回すことこそが、マネジメントの基本中の基本とされてきた。
しかし近年、この王座を揺るがすかのように、新たなキーワードが飛び交っている。米空軍の意思決定プロセスに由来する『OODA(Observe-Orient-Decide-Act)』、ソニー流とも呼ばれる『STPD(See-Think-Plan-Do)』、あるいはPDCAの順序を入れ替えた『CAPD』や『DCAP』など、まさに枚挙にいとまがない。
「PDCAは計画偏重でスピードが遅い」 「変化の激しい現代では、まずは観察(Observe)から入るOODAの方が実践的だ」
こうした主張とともに、新しいサイクルが持て囃されている。確かに、計画にどれほどの時間を割くか、実行前の観察・分析にどれだけの重きを置くかという「重心」の違いはあるだろう。しかし、断言してもいい。これらは本質的には大した違いはない。
「いきなり計画」などありえない
そもそも、「PDCAはPlan(計画)から始まるから、現状を見ずに机上の空論で走ってしまう」という批判は、大きな誤解に基づいている。あるいは、実務を知らない素人の言いがかりと言ってもいいかもしれない。
かつての旧ソ連の経済計画ならいざ知らず、現代のビジネスにおいて、事前の情報収集や現状分析なしにいきなり「計画」を策定するプロジェクトなど存在するだろうか?
筆者がかつて、日本ユニシスやアビームコンサルティングといったファームで、BPM(ビジネスプロセスマネジメント)を含む業務改革プロジェクトを主導していた頃の話をしよう。当時、我々もプロジェクトの進行を便宜上『PDCA』という枠組みで説明していた。しかし、その「Plan(計画)」のフェーズで実際に行っていたことは、単にスケジュールを引くような単純作業ではない。そこには以下の7つのステップが凝縮されていた。
【実務における「Plan」の内訳】
- 大目的・狙い・制約の確認と共有
- 現状(As-Is)の徹底的な把握
- あるべき姿(To-Be)の明示化
- ギャップの明確化
- 課題構造の分析と理解
- 課題解決策の策定と検証
- 実行計画(試行含む)の策定
ご覧の通り、「Plan」と一口に言っても、その中身の半分以上は「現状把握」と「分析」である。これはSTPDで言うところの「See(見る)」や「Think(考える)」であり、他のフレームワークが強調する観察要素と何ら変わらない。
「Plan」という箱の中身は泥臭い
大手企業の業務改革ともなれば、関係部署も多く、複雑怪奇な業務フローとそれにまつわる諸条件を紐解く必要がある。「As-Is(現状)」を正確に把握せずに計画を立てることなど、自殺行為に等しい。
我々は無理やりにでも、皆が共通言語として知っている「PDCA」という名札の箱に当てはめていただけだ。
その箱の中身、つまり実態としては、観察も分析も泥臭いほど徹底的に行っていたのである。現在、弊社(パスファインダーズ)の本業である事業戦略策定においても、この泥臭いプロセスは何ら変わりがない。
実際問題として、業務改革に限らず、ある程度のサイズ感のある経営課題に取り組むことになれば、次のようにかなり多くのステップを経て検討せざるを得ないのが現実だ。
【マネジメントサイクルの実像(11ステップ)】
1.~ 7. (前述の計画・分析フェーズ)
8. 実行(試行の実施を含む)
9. 実行結果の検証・分析
10. 検証・分析に基づく実行計画へのフィードバック・修正
11. 続けるべきか、次段階に進むべきか、転進(ピボット)すべきかの判断
(→これ以降は最初に戻る)
あまりに多段階だと人間の頭には残らない。だからこそ先人たちは、人々にマネジメントサイクルのポイントを意識してもらえるよう、あえてこの複雑な工程を4文字程度に区切ってパッケージングし、訴求に工夫を凝らしてきただけなのだ。
PDCAが本当に伝えたかった「魂」
だからこそ、「PDCAには観察や分析がないじゃないか」と鬼の首を取ったように主張する人を見ると、「何を今さら」と思わざるを得ない。その批判は、PDCAという「用語」の字面しか見ていない証拠であり、現場での運用実態を知らない机上の空論だ。
もっと言えば、PDCAの提唱者たち(デミング博士やシューハート博士ら)が本当に伝えたかったポイント、その意図は、「Pから始めること」ではないはずだ。彼らの真意は、「Do(実行)のあとに、しっかりとCheck(評価)を行い、Action(改善)につなげること」にこそある。
どれだけ綿密に計画(Plan)=仮説を立てたとしても、不確実なビジネスの世界では、必ず想定外のことが起こる。計画時には見通せなかった「穴」や「歪み」が必ず生じる。
だからこそ、やりっ放しにせず、結果を検証し、次につなげる。このフィードバックループこそが、品質管理や業務改善の「魂」である。新しいアルファベットの並び順を覚える暇があるなら、まずは目の前の仕事で「Check(評価)」と「Action(改善)」が機能しているかを問い直すべきだ。
アルファベットの並び順にこだわるな
OODAでもSTPDでも、呼び名は何でもいい。重要なのは、そのサイクルが現場で回り、成果を生んでいるかどうかだ。その意味で「PDCAサイクル」というのは「マネジメントサイクル」の単なる言い換えに過ぎない。
「PDCAは古い」という言葉に踊らされ、本質を理解しないまま新しいフレームワークに飛びついても、結局は何も変わらない。マネジメントの本質は、字面の解釈ではなく、仮説の構築と検証、実行と修正のプロセスそのものにあるのだから。
