自覚のない経営者がもたらした被害の連鎖

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3年振りに全国のどこにも行動制限のないゴールデンウィーク。長期連休をとりやすく、遠出の観光に向いた日程となりました。自粛に次ぐ自粛に苦しめられていた各地の観光業や飲食業の人たちにも恵みとなるといいですね。

しかしその矢先に起きた知床遊覧船の事故は、多くの観光業の人々に冷水を浴びせる出来事です。犠牲者の横顔や遺族の悲嘆が報道されるたび、胸が締め付けられる思いがします。

一方で、安全第一であるべき交通機関の運営に携わる資格のない、呆れるほど見識に欠けた人間が運航会社の経営者であったことが次々と明らかになっています。

未経験でまともな訓練も受けていない新米船長に運営を任せ切りだったこと(その操舵技術は同業者から危ぶまれており、昨年には2度も事故を起こしている)。国交省の定めた安全管理規程のガイドラインを片っ端から無視し、自分勝手な解釈での「条件付き運航」を繰り返していたこと(同業他社の言う「条件付き運航」は、安全な気象条件で出航しても天候が悪化したら引き返し、料金を一部返金する営業のことで、まったく別物)。

自社の無線アンテナの故障の放置。代わりの連絡手段とした船長の携帯電話と連絡を取るよう営業所の社員に指示すらしていないこと。そして当該の船長の携帯電話は運航ルート上に幾つも「圏外」が存在すること。 そもそも社長自身が運航管理者であることも認識しておらず、出航停止判断基準の波の高さなど具体的な安全管理規程の内容も知らないこと(自社で定めたはずなのに!)。そして極めつけは、運航管理者である社長は航行中に営業所にいるべきなのに実際には不在で、代理となる運航管理補助者もいなかったこと。

ここまで安全管理を無視している業務実態からすると、今まで致命的な事故が起きなかったことのほうが不思議といえるものです。この「知床遊覧船」社が倒産することも、桂田社長が業務上過失致死罪で逮捕・起訴されることも間違いないでしょう。

しかし安全運航を肝に銘じてまともな運営をしてきた、知床をはじめとする北海道の遊覧船会社は、この絶好の書き入れ時にキャンセルの嵐に見舞われています。その周辺の観光地も同様です。「どうせ遊覧船に乗らないならそこに行く意味はない」と考えた観光客たちが急遽別の観光地に切り替えたのでしょう。自覚のない一人の経営者がもたらした、被害の連鎖です。