2023年初頭にあたって

グローバルブログ

昨年の状況を振り返ると、我々は随分と大きな歴史的転換点に直面しているのかも知れません。

最も大きい出来事は、軍事大国ロシアによるウクライナ侵略です。常任理事国であるロシアの拒否権により国連安保理は有効な対処ができません。ロシアで反戦機運が高まりプーチンが失脚するか暗殺されるか、再びウクライナが窮地に陥るかしない限り停戦はないでしょう(世界中で「ゴルゴ13はいないのか」という声がこんなに高まったことは今までないでしょう)。

一方、隣の大国・中国では習近平国家主席が異例の3期目に突入し、共産党指導部を側近もしくは元部下で固め、対抗勢力の芽を完全に摘み取りました。こうなると習氏の判断ミスが修正されることは難しく、強権政治の傾向がますます強くなりそうです。それは、習氏が自身の政治的大義名分である「中国の夢(=周辺を圧倒する大帝国化)」と「台湾(武力)統一」の可能性を試すことができる環境が整ったことを意味します。

結果、国際政治的には「米欧を中心とする民主主義国家」対「中露を中心とする権威主義国家」という新しい東西冷戦構造が固まりつつあります。

しかし経済的には米中日欧の結びつきが深まっていることも事実で、以前のような完全な別ブロック経済に矮小化することも今さら難しい状況です(例えば東南アジアの立場で考えてみると分かるでしょう)。その一方で先端技術に関する覇権争いや戦略物資の争奪戦は以前よりも公然かつ激しくなっています。日本企業にとっては「経済安保」というリスク概念に沿った行動がますます重要になりそうです。

そんな中、日本は政治的には「米国側に立つ」と旗色を鮮明にせざるを得ず、米国の歓心を買うためにも、防衛費の大幅増額と米国製武器の大量調達を土産に岸田首相は近いうちの訪米を予定しています。今、この日本にそれに見合う恒常的財源は考えにくく、案の定、岸田政権は財源の特定を一部棚上げすることで決着してしまいました。

年頭の会見で岸田首相は「異次元の少子化対策」を表明しましたが、既に防衛費大幅増額で払底した国家財政を考えると、その財源確保にはもう本格的増税か国債増発しか手がありません。だから「異次元」というのは残念ながら首相の気持ちの中だけの話に終わりそうです。

同時に鮮明になりつつあるのは、世界の景気後退です。

コロナ過からの回復による世界的需要急増と、米国政府による給付金が実質的な「レイオフ状態の家計に対する転職支援金」になったための米国での転職と大幅賃上げの波、そして中国などで労働者が職場に戻らないことでの供給制限。これらが集約的に世界にもたらしたインフレーションの第一波に、その後のロシアのウクライナ侵攻とその後のロシア制裁が招いた食糧サプライチェーンのひっ迫とエネルギー価格の急騰が、「火に油」を注いだ格好になったのです。

そしてそのインフレを退治するために(日本を除く)主要国政府が採った手段は思い切った利上げです。いずれも多少発動が遅れたため、利上げの程度は中途半端では効果がないことから大胆なものとなりました。かなり急激な利上げは当然ながら景気を冷やします。米欧の2023年の景気はかなり悪化するでしょう。

しかし米欧の金融当局は中途半端な形になるとインフレは対峙できないと経験的に知っているので、少なくとも2023年の半ばまではインフレ抑制のための高金利政策を続けるでしょう。

しかもここに中国経済の不振が加わることでしょう。既に不動産不況とゼロコロナ政策による沈滞ムードが常態化していたのに、ゼロコロナ政策停止が現在もたらしている感染爆発が一段と労働者不足と消費低迷につながると(ただし都市部では間もなく「集団免疫」を獲得するかもという見方もあります)、21世紀の中国では異例の「実質ゼロ成長」もあり得ます。

つまり結論的には2023年の世界景気はぱっとしないという予想に落ち着かざるを得ないのです。ロシア対ウクライナの戦争が膠着状態に陥るという前提でこうですから、もし戦火が広がるとか欧州の他地域に飛び火する事態になればどうなるか、予測もつきません。

その中で日本経済は他の先進国に比べると「まし」な成長率を予測されています。

でもその条件は、1)世界景気の低迷が予測できている程度に収まること(特に新興国経済の破綻連発がないこと)、2)(卸売物価指数と消費者物価指数の差分を埋めるべく)これから日本で起きるであろう消費者物価の「玉突き上昇」が欧米ほどひどくないこと(つまり10数%辺りに収まること)、3)それで体力をすり減らしたはずのB2C企業の大半が鷹揚にも3~5%程度の賃金アップに応じてくれること、などといった都合のよいシナリオが実現することです。

なかなかハードルは高そうです。