韓国にも現れた、「社員同士の協力でイノベーションを引き起こす」経営

ビジネスモデル

1月16日(金)に「島耕作のアジア立志伝」、「”競争”から”協走”へ ~スン・ヒョンチャン(ハンズ・コーポレーション)」を観ました。これまで韓国企業には「残念」な思いしか抱かなかったのですが、初めてまともな経営者が現れたかと思えます。

アジア経済危機で未曾有の経済苦境を経た韓国では儒教社会のよさが失われ、今や「自分さえよければよい」自己中心主義者でなければ生き残れない、しかも「失敗すると巻き返しが難しい」過酷なだけの殺伐とした競争社会といわれます。

ところがこの国で今、「社員を家族のように扱いリストラはしない」という経営者が注目されているというのです。それが世界的な自動車ホイールのメーカー、ハンズ・コーポレーションのスン・ヒョンチャン会長(37)です。米国MBA帰りの2代目の若手CEOですが、その言葉のひ弱なイメージとは違い、会社を立て直したばかりか世界5位にまで育て上げた、世界でも指折りの経営者です。

「競争で社員の潜在能力を引き出す」経営から「社員同士の協力でイノベーションを引き起こす」経営へ。韓国の主流とは完全に真逆ですが、実際に効果を上げています。そのお陰で同社は世界的な有力メーカーになったのですから、その実績は無視できないどころか、注目の的になりました。その経営手法が韓国の経済界でも認められるようになったのです。

スン・ヒョンチャン会長は経験の不足する若い社員にもチャンスを与え、とにかくトライしてみることを奨励したのです。そしてベテラン社員には彼らのアイディアを批判するのではなく、どうやって実現するかをサポートさせることをとにかく奨励したのです。

そして一度や二度の失敗にもめげずに次々と出していった若手のアイディアを、ベテランや外部から招へいした社員が知恵を出して実現し、業界にそれまでなかった斬新なデザインのホイールが大ヒットし、同社の躍進が続いたのです。

口で言うと簡単に聞こえますが、2代目社長がこんなことをいきなり言っても、最初は番頭役の専務やら常務やらを筆頭に、ベテラン社員が「できない理由」や「そもそも意味がない」理由などを並べ立てたでしょう。それが普通の大企業・中堅企業なのです。それでも根気よく説得を続け、少しずつ成果を出し、企業文化を変えていったのでしょう。その難しさを知るだけに、同氏の苦心と努力には本当に頭が下がる思いです。

もしこの会社の躍進が続き、韓国企業がこぞって「社内競争」から「社内協調・社外競争」というまともな方向に経営を切り替えてきたら日本企業も相当用心しなければいけません。いや、その前に真っ先に日本企業こそそうした経営を実践すべきです。お題目でなく、この実践こそが社員の底力を引き出す方法なのですから。