電子書籍の時代がもたらす「作家エージェント」というビジネス

ビジネスモデル

アマゾンが電子書籍端末「キンドル」の日本版を発売し、迎え撃つ各メーカーも専用端末を一斉にモデルチェンジしたり値下げしたりしている。もちろん皆、AppleのiPadを意識した価格づけだ。端末が熾烈な販売競争に突入したことで、電子書籍の普及に一層の拍車がかかることが期待されている。一昨年あたりから云われていた「今年こそ『電子書籍元年』」というキャッチフレーズが、そろそろ「狼少年」から脱してもよい頃である。

小生自身、出版や電子書籍には興味が強いためずっとウォッチしているのだが、2月10日(日)にBS日テレで放映された「財部ビジネス研究所」は面白かった。番組ではそうした端末の違いや出版社側の動向だけでなく、この中で新しいビジネスモデルを探る動きを紹介していた。主人公は昨年講談社から独立した出版プロデューサ、佐渡島庸平氏である。

彼が起ち上げたのは「作家エージェント」というビジネス。作家マネジメントと編集者を足したような職業である。「新しい形でクリエイターに収益をもたらす」と彼はいう。マンガ編集者として「ドラゴン桜」「宇宙兄弟」など多くのヒット作を生み出してきた佐渡島氏には出版プロデューサとしての人脈と手腕がある。

出版社に死蔵されている過去のコンテンツを再度電子書籍化しても売れないということは、出版社も既に学んでいるという。それに対してマンガ畑でキャリアを育んだ佐渡島氏には、今の出版社は電子書籍においても印税に重きを置き過ぎているように見える。もちろん業界でも書籍→TVドラマ→映画といったふうにコンテンツの「再利用」は実施しているが、まだまだ範囲が狭い。マンガなどの場合にはキャラクターグッズなどに展開でき、そうした一つのコンテンツからの「収益の多様化」×売り先としての「海外市場の開拓」こそが「作家エージェント」の貢献ポイントのようだ。

その収益の多様化の方法論(もしくはビジネスモデルの組み方)については、クリエイターとしての作家次第で個別に考えるアプローチのようだ。多分、現在「思考&試行」中なのだろう。いずれ幾つかのパターンが生まれてくるに違いない。注目に値しよう。

海外展開に関連しては、日本の出版社には今、海外展開する体力も意欲もないので、身軽なベンチャーのほうが向いているという。日本のマンガがなぜ海外で普及しないかというと、コンテンツが受け容れられないのではなく、ボトルネックは物流であり(確かに国内のような再販制度を前提にした流通はあり得ない)、電子書籍化でそれは乗り越えられるという。しかしそれでも電子書籍化の普及に5年程度は掛かるため、それまでは電子書籍化されたコンテンツを用意する期間だという(番組ではカラー化された電子書籍のマンガを見せていた)。

ちなみに、日本のマンガが世界でも評価されているという話は間違いだという。実は欧米やアジアで売れているのはアニメだけであり(確かに!)、「クールジャパン」の評価は何年か前のアニメの遺産でしかないという。これはなかなかショッキングな話である。