生産性向上は能率向上とイコールではない

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「日本の中小企業、そしてサービス業の生産性は世界の先進国に比べて非常に低い」。これはある程度は(例外はいっぱいあるけれど全体的な傾向としては)事実だと、私も思います。でも世の議論では、このあとに「だからDX化しなきゃあいけない」と続くことが最近とみに多くなってきました。

でもちょっと待ってください。それホントですか。短絡し過ぎじゃあないでしょうか。まず事実関係をブレイクダウンして把握することが第一です(そして第二に、生産性が低い原因を構造的に分析してからでないと、思い付きの解決策に飛びつくのは下策です)。

「日本の中小企業」って言うけど、どのセクターが特に低いのか(確かにサービス業は低いけど…)。基準になるのはどのグループ (OECD加盟国の中小企業?) の平均値(?)なのか。どれほど基準値から引き離されると「非常に低い」とされるのか。マスコミや研究者はちゃんと整理して議論して欲しいものです。

それらにも増して私が気になっているのは、「生産性」の定義をしっかり認識していないで議論している「識者」やコメンテータが少なくないことです。一般にいう「労働生産性」とは、労働者一人当たりの付加価値です。付加価値とは要は「原価(仕入価格)に幾ら上乗せして売れたか」です。だから労働生産性の場合、売上から外部支払費用を引いて人件費と利益に回せる額を一人当たりで計算したものです(正確にはこちらをご覧ください)。

だから「生産性」と「能率」とはまったく違う概念であり、比較対象にすらならないものです。それなのにこの2つを混同してコメントしている自称「識者」やコメンテータが多いことにはあきれます。ビジネス界ですら、いまだにちゃんと理解していない人たちが平気で業務改革への取り組みを語るのを見聞きすることが絶えません。噴飯ものです。

この2つをちゃんと区別していれば、中小企業がITツールを導入しても、一部の業務が「能率的」になることはあっても、必ずしも全体として「生産性が向上」することは期待できないということが分かるでしょう。

要は、ITツール導入で業務が「能率的」になっても、その浮いた時間で売上・利益を増加させる策を打たないと、精々が「残業減らし」の効果しか生まない、ということなのです。場合によっては残業削減効果よりツール費用のほうが高くつくかも知れませんし、単に「仕事が楽になった」だけに終わる(多忙な職場では「働き方改革」になって従業員満足度は上がる)かも知れません。

中小企業が生産性を向上させるには、「能率向上」よりも「付加価値アップ」、すなわち高く売れる商品を続々と開発するか、もっと多く売れる方策を工夫するかのどちらかに血道を上げる必要がある訳です。極端な話、そのためだったら業務処理の途中に考え事をして、作業時間が長引いても全然かまわないのです。

ここから、なぜ多くの中小企業、そしてサービス業が全般的に、生産性が低いとされるのかが理解できるのではないでしょうか。

多くの中小企業はつい自社内の「能率向上」に注力してしまい、顧客(大企業が多い)との取引条件を改善する(つまり値上げする)ことに腰が引けてしまっています。 サービス業の多くはデフレと同質化が生む安売り競争に随分と長くはまっています(つまりレッドオーシャンに浸かっているのです)。

考えるべきはオペレーション等の「能率化」ではなく(それが真っ先に必要な企業もあるでしょうが)、いかに競合と差別化できて高い値段でも指名買いされる商品・サービスを開発するか、自社のサービス・商品に興味を持ってくれる新しい顧客をいかに開発するか、ではないでしょうか。