(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************
仮説検証の必要性について改めて訴える「求められる仮説検証」シリーズの第5弾。「戦略仮説の検証」がどういう状況やプロセスにおいて求められるのかについて述べたい。
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前回の記事では「なぜ戦略仮説を検証する必要があるのか」について語った。今回は「戦略仮説を検証する必要があるのはどういう場面か」というテーマについて考えてみたい。
そもそも誰が「戦略仮説をちゃんと検証したのか?」と言い出すのか。これは前回の「なぜ戦略仮説を検証する必要があるのか」から考えれば明白だ。
大きく分けて2つあり、一つは戦略推進に協力する側だ。すなわち「(提示された)戦略仮説の信頼性がどの程度あるのか」を確かめ、「本当にその仮説に基づいて協力する価値があるのか、無駄な仕事に付き合わされて馬鹿を見ることがないのか」をチェックしたいという発想だ。
この場合は前回の記事でもお伝えした通り、仮に課題仮説が未検証でも、戦略の打ち手仮説が検証済かつ好結果が出ていれば、「まぁ結果が出ているなら」と納得して協力してもらえるケースが圧倒的に多い。つまり打ち手仮説が出てから以降のプロセスにおける検証が重要となる。
もう一つは戦略推進側、すなわち戦略策定した当人のチームもしくはその上司だ。「仮説が間違っている場合の被害を最小限に食い止める」ために、抜け漏れなくちゃんと考えておかないといけないという責任感からの発想だ(上司からすると「部下の間違いの責任を取らされてはかなわない」というリスク回避の気持ちもあるかも知れない)。
この場合、戦略策定のプロセス全般にわたっての検証が求められる。なぜなら打ち手仮説に対する検証が済んでおり、かつ好結果が出ていて一見万事うまくいきそうに見えていても、実は課題仮説が間違っていて打ち手を考える方向や領域が違っていれば、機会損失が生じるかも知れないし、全部が壮大な無駄打ちになりかねないからだ。
この辺りは前回の記事でもケース分けしてお伝えしたが、簡単な状況例で再度考えてみたい。
例えば既存技術を応用して新事業の開発をする場合を考えてみよう。幾つもの可能性が有り得るが、課題仮説として「自社の技術の特性」(特に顧客目線でどういう価値を感じられるのか)を広く正しく捉えることに失敗してしまえば、それを応用することで『満たされていないニーズがある』はずの市場領域を必要以上に狭く特定してしまうことになるかも知れない。そうなれば結果的に、あまりポテンシャルの大きくない市場をターゲットとしてしまうことになる。
そうなれば打ち手仮説がどれほど優れていても、本来狙うべき事業の規模には到底近づけないようなビジネスモデルと市場開拓方法を一生懸命に考えることに、関係者の努力を集中させてしまうかも知れない。
こうしたリスクを考え合わせると、「戦略策定のプロセス全般にわたっての仮説検証が求められる」ということが正解であるとお分かりいただけよう。
では、戦略策定のプロセス全般にわたって、どれほどの頻度で(つまりどれほど細かい段階ごとに)検証を進める必要があるのだろうか。
理想的には「仮説が生じる度に」検証を行い、それを積み重ねるのが、「仮説が間違っている場合」のリスクを最も小さくできるのは間違いない。
例えば新規事業なら「この辺りに事業ネタがありそうだ」という思いつきの段階で、「本当にそれほどの市場性があるのか」を改めて調べる、といった検証を行う。そして市場環境分析が少し進んだ3C分析辺りの段階でも、いったん定めた仮説に対し「本当にそうか?」と確かめる検証を行う、といった具合だ(検証方法については割愛する)。
ただ、こういった進め方だと新規事業開発に慣れていない人たちにはとてつもなく煩雑に感じられるだろうし、なかなか進捗せずに途中で嫌になるかも知れない(本当は、やり方次第で意外と素早く検証が終わることも少なくないのだが)。外部コンサルタントに支援を頼む場合でも、通常は余計に時間が掛かるためコスト高になる気がして避けたくなるだろう。
そこで実務的には、ある程度仮説を積み重ねて切りのいい段階に入ったところで、まとめて主な仮説を検証するのが普通だ。具体的には、新規事業なら市場環境分析が終わりSWOT分析等で示唆を引き出した段階、もしくはSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)の検討をしてターゲット市場仮説を引き出した段階辺りだ(典型的な検証方法としては市場に詳しい専門家に分析結果をぶつけるなどだ)。
もちろん、これだけで終わってはいけない。その後も『選ばれる理由』を定めたらその仮説を顧客候補にぶつけて本当に意味を持つのかを検証しなくてはいけないし、マーケティング政策としての4P/4Cを定めたらそれが本当に有効なのかをできる限り机上で検証しなくてはいけない。最終的には市場での試行にて検証することが欠かせない。
新規事業のケースに限らず、既存事業での戦略見直しや課題解決についても同様だ。そもそも、現状をいったん把握・分析した段階で見えている(と思った)課題仮説が正しいとは限らない。
例えば、在庫管理のやり方が稚拙だから生じていると当初思われていた過剰在庫問題が、実は需要の伝わり方に段階が多いことから生じる「ブルウィップ効果」だったというケースはいくらでもある。
また、依頼された当初は「担当者たちの売り切る能力が足らないからかも知れない」と上層部が考えていた「赤字事業の切り離し」プロジェクトでは、実際には組織内の不文律「上層部の機嫌を損ねないよう忖度した奴が評価される」があまりに強すぎて、儲からないと分かっている商品群(有力幹部が育て上げたもの)を切れずにいる、という事が本当の課題だったこともある。
つまり、仮に「これが問題だ」とある段階で思ったとしても(仮説として定めたとしても)、その仮説を検証するまでは打ち手を検討するステップに入ってはいけないのだ。
小生が口を酸っぱくしてクライアントにお願いするのは、「先走りして結論にジャンプしないで」というものだ。そしてクライアントが焦って間違った結論に飛びつかないうちに、素早く仮説を検証するよう努力している。 しかし世の多くの企業が現実にどこまで真面目に/まめに仮説の検証を行っているのかについて、小生はかなり疑念の目を持っている。この辺りは別の記事にて触れたいと思う。