最新技術を駆使してのMAN HUNT劇が示すもの

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12月3日(火)放送の「BS世界のドキュメンタリー」は、シリーズ「終わらないテロの脅威」の最終回で「マン ハント~追跡 ボストン爆破テロ犯~」。今年4月、ボストン・マラソンで3名の死亡者と数百名の負傷者を出した爆破テロ犯がいかに特定され、追いつめられていったかが描かれ、テロの脅威と共に、現代の情報力を駆使した捜査能力の高さと「監視の目を逃れにくい現代」を印象づけるものだった。

このテロは、年に一度のお祭りムードに包まれた街を悲しみと恐怖に陥れた。しかし、その犯人はわずか5日後に逮捕された(正確には、容疑者の1名は死亡、もう1名は拘束。最後は警官との銃撃戦になり、犯人逮捕の報にそれまで戦々恐々としていた住民が拍手と歓声を上げる光景が印象的だった)。

混乱を極めた爆破現場を、警察はどのように分析し、証拠を見いだしたのか。爆発物の世界的権威、ニューメキシコ工科大学のヴァン・ロメロ教授の爆発物研究チームの分析により、爆発物は圧力鍋によるものとすぐに推測・検証された。現場で発見された破片から、圧力鍋のメーカーとタイプ、釘やボールベアリング等が特定された。そうした大きさの鍋と付属物を入れることができるバッグを現場で持っていた人物を特定するため、現場の監視カメラの映像が集められた。

ボストンのケースでは一つひとつの監視カメラ映像が集められ分析されるという途方もない作業だったが、ニューヨーク市では全ての監視カメラがネットワークされ、どこで何が起きつつあるかを瞬時に検索・モニタリング・分析できるという。さすがブルームバーグ市長のお膝元。

ボストンのケースに戻る。市内に設置されている延べ数百時間におよぶ監視カメラと、自主的に提供された観客が撮影した事件現場の映像から、捜査班が容疑者を割り出した。しかしこのケースでは撮影された画像はあまりに不鮮明で、顔認識システムを使えなかった(今の顔認識システムでは人物が正面を向いていないといけない、ある程度の鮮明さが必要などの制約がある)。

容疑者の逃亡を促す懸念からFBIは当初、容疑者の画像を公開しなかったが、インターネット上では当日バッグを持っていた人たちを中心に、無実の人たちが「魔女狩り」に遭っていた。そこでFBIは方針を転換し、防犯カメラに映った容疑者の画像(非常に不鮮明なもの)を事件発生後3日後に公開し、市民に協力を呼びかけた。

科学捜査班は、非常に不鮮明な画像を補整し鮮明な画像に変換するソフトウェアを駆使し、「犯人像」を類推するが、その公開前に事件は急速に展開する。

写真が公開されたことで焦った犯人は街からの逃亡を企て、車を強奪。被害者は途中で逃げることができたが、自分の携帯電話を社内に残したままだった。しかし電源が入っていたので、GPS情報により警察はその車の位置をかなり正確に特定でき、犯人を追いつめることができた。その結果、警察とのカーチェイスになり(この映像も当時評判になった)、犯人の一人(兄だったと思う)はもう一人にひき逃げされた。それでも逃げおおせたもう一人は姿を隠す。

残る犯人が潜伏している場所は当初は全く不明で、ボストン市内は一種の「戒厳令」状態だったが、州警察は赤外線カメラをヘリに搭載し、市民から寄せられる情報に基づき市内上空をずっと旋回させ続けた。しかし容疑者がビル内に潜んでいたり市外に脱出していたら大ハズレだ。しかしやがて市民の通報があった。ヘリが現場を映すと、ボートに潜んでいる容疑者の赤外線画像が鮮やかに浮かんでいた…。犯人逮捕後、市警はツイッターに書き込んだ。”CAPTURED!! The hunt is over. The search is done. The terror is over. And justice has won. Suspect in custody.”

事件の検証と並行して、街中に設置された監視カメラの情報を集中管理することで市内の監視システムを強化するニューヨークの実態や、顔認識ソフトの開発の最前線など、911同時多発テロ事件以来、テロ対策を強化してきたアメリカの実情もよく伝わった。今の米国の最大の敵がテロであることを示唆するものだった。