日産の減額強要問題が示す、日本経済の根本問題

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2024年春闘は13日、大手企業の回答が出揃いました。自動車各社の大半は労働組合の要求に対し満額回答。電機大手もベースアップ(ベア)で満額回答。日本製鉄にいたっては要求額を大幅に超える異例の展開となりました。

物価高や人手不足を背景として前年を上回る要求をした組合側に対し、経営側も2年連続の大幅賃上げで応じた形です。あとは日本経済の主力である大多数の中小企業がどれほど頑張って賃上げできるか、期待したいものです。

その中で私が気になったのは日産自動車です。労働組合が要求した月1万8000円の賃上げに対し満額回答しています。定期昇給と基本給を一律で底上げするベアに相当し、賃上げ率は5.0%。前年から6000円引き上げ、現行の人事制度で過去最高の水準。これで満額回答は4年連続です。これだけ見ると、日本経済の歯車をデフレから正しい方向に回すための、大手企業として責任を果たしている格好です。

しかし数日前の報道が頭をよぎります。公正取引委員会(公取委)絡みのアレです。日産が、自動車部品メーカーに払う納入代金を一方的に引き下げたことは下請法違反にあたると公取委が認定し、再発防止などを求める勧告を行った件です。

公取委によると、日産は2021年1月から23年4月にかけて、タイヤホイールやエアコンなどを製造する36社の下請け業者(Tier-1なので意外と大企業が過半です)に対し、事前に決めた代金から3~5%程度差し引いて支払っていたとのことです。発注時に決めた代金を減らすって、これ、たとえ双方の合意があっても完全に下請法違反です。下請け業者は、取引が打ち切られることを恐れて、減額を拒めなかったといいます。そりゃあそうでしょう。

違法な減額は合計で約30億円に上り、1956年に下請法が施行されて以降、認定額として最高となった模様です。日産は事実を認め、約30億円の減額分をすべて各業者に返金したといいますが、不当な減額は遅くとも1990年代に(つまり下請法の改正よりとっくの昔から)始まっていたとみられており、とんでもない話といわざるを得ません。

日産から理不尽な値下げを強要されたTier-1が次にどういった行動をとっていたかも追跡調査されるべきで、彼らは彼らで2次下請け(Tier-2)に対し同様の理不尽な値下げをしていた可能性が拭えません。仮に日産のような露骨なやり方をとっていなくとも、次の価格交渉時に下請けいじめ(と彼らが呼ばなくとも)をせっせと実施していたと推測されます。だってそれが彼らの利益確保の手段として長年にわたって根付いてきた経営手法なのですから。

ここで立ち止まってちょっと考えてみてください。日産の経営がやっていることを。

「物価高から社員を守り、人への投資を通じて競争力を高め、ひいては日本経済の主要な一員として社会を守るため」などといって社員の給与は上げてくれます。でも陰で行っている理不尽な下請けいじめによって、Tier-1からTier2、そしてTier-3以下(この辺りになると世間的イメージの下請けである中小企業に合致します)へと値下げ地獄の連鎖を引き起こしてきたのです。

それは結局、Tier2やTier-3の社員の給与がいつまでも上がらない主な原因になっており、それが日本の90数%を占める中小企業が5%どころか、なかなか賃上げすらできないという窮余の状況を引き起こしてきた根本原因なのです。日産という会社は、日本経済がダメなところを見事に体現している存在なのです。

日産がすべきなのは、下請けいじめによって中途半端な利益を確保して社員に報いることではありません。

本当に高く売れるクルマを開発・販売し、十分な付加価値を獲得することで胸を張って社員の給与を上げると同時に、Tier-1の納入価格を引き上げる代わりに「Tier-2以降の納入価格を引き上げてやれよ」と諭すことです(最近、トヨタが実践し始めています)。そして自らの下請けピラミッドを「富者のピラミッド」に変える事です。

「やっちゃえ、日産」ではなく、「ちゃんとやれよ、日産」なのです。