日本企業に必要な長期戦略は人づくりの原点に立ち戻ること

グローバル

11月8日(金)にNHK BS1で放送された島耕作のアジア立志伝「スペシャル報告 ニッポン新戦略のヒントとは?」。今回のスペシャルでは、日本が今本当に必要な長期戦略は何なのかを探る、という趣旨である。第一線で活躍する日本の経営者(コマツ・坂根正弘氏、ローソン・新浪剛史氏、テラモーターズ・徳重徹氏など)のお馴染みの顔も登場し、作家・江上剛や、経営共創基盤・冨山和彦氏もコメントしている。

一部はこれまでの総まとめ的位置づけで、アジアの経営者の成長戦略をおさらい。誰もがリスクと機会に果敢に立ち向かい、迅速な意思決定によりアジア経済の勃興を支え、しかもそれに乗ってきたのが分かる。必ずしも彼らの真似をするのがよいのではなく、むしろ彼らのように本質を見極めてフォーカスし、スピードをもって徹底的に実行してきたことを見習うべきである。つまり小生がいつも言う、”Focus, Speed, Thoroughness”なのである。

二部で考察されるのは「日本のビジネスモデルは見直す必要があるのか」。日本のモノづくりの在り方や人事制度を改めて考えるということである。まずはアジアの低価格製造の秘密、それは水平分業。電子・半導体産業のような技術革新の速い分野では(日本の垂直分業より)有利だと番組は主張する。これはモリス・チャンのTSMCのモデルである。ファブレス(設計専門)とファンドリー(製造請負)のフォーカス同士の組み合わせが成功を生んだのである。

富山氏は垂直分業が出来上がっている日本企業では水平分業へのシフトは容易でないとコメントしていた。確かにその通り。番組はテラモーターズでは水平分業できていると紹介するが、これは論点がずれている。失うものがゼロのベンチャー企業には可能だが、工場部門を持ち、重厚な下請け構造を持つ日本メーカーだから難しいという話なのだ。

一方、作家の江上氏は逆に、日本企業は垂直分業で技術蓄積ができたのだから、擦り合わせが必要な領域では強みを発揮できると主張する。そう、日本企業は部品製造に強く、欧米企業は製品デザイン・設計に強く、中国や東南アジアで組み立てるのが、最も効果的な国際分業かも知れない。しかしそうすると電気・電子の完成品メーカーは生き残っていくチャンスが小さいことになる。小生は単なる「垂直か、水平か」ではなく、彼らは単品製造ではなく、製品およびサービスを組み合わせたシステムで付加価値を高めていく方向に行くべきだと思っている。

この「垂直・水平」論点をきちんと整理することなく、番組はいきなりAir AsiaのTony Fernandezの話に移る(これはこれで規制や既得権益を乗り越える方法論として面白いが、いい加減な番組なのかも知れない)。ちょっと日本企業の長期戦略の話の流れとマッチしないが、今の日本企業にとっての意味合いとしては「出でよ、ベンチャー企業。規制は自らの知恵で打ち破れ」といったところかも知れない。

さらにハイアールの「現場への権限移譲」や「成果主義」については、日本企業でも実施しているところも少なくない。番組の中で島耕作が主張するように、日本人に対しては「単なる成果主義より、長期雇用による安心感がよい発想を生む」というほうに小生も賛成する。中国をはじめとしてアジアの多くの国では長いこと同じ会社に勤める気は元々ないため、成果主義がやる気のある人材を引き付けるのに効果的なのである。しかしそれは底辺の「できない人たち」や「体を壊した人たち」を首にすることが前提である。そして中華系では大部分の労働者は自発的にルールを守らないので、罰則を厳しくして、ルールを守らないと損すると思わせる必要があるのだ。

優秀な日本企業ではそうした短期的で金銭的なインセンティブを強める代わりに、責任や機会、そして表彰を与えることでやる気を維持させる。罰則の代わりに、教育で自発的にルールを守らせるよう、我慢して雇用することで一体感を維持してきたのである。もちろん、「ぶら下がり」社員の甘えを許さないためには、飴と鞭の使い分けは必要。坂根氏の主張するように、日本企業の強さであるチームワークを活かしさらに強めるためには「成果報酬」と「長期雇用」のバランスで人を育てることが大切なのだ。それこそが「人以外に資源のない国」日本に育った企業の背骨ではなかったのか。