教員免許2年取得の教職課程の新設は本当に有意義なのか?

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報道によると、文部科学省は2025年度から、「最短2年で小中学校などの教員免許を取得できる」教職課程を4年制大学に新設する、との方針を固めたそうです。

文科省の中央教育審議会は昨年12月、2種免許の取得を念頭に置いた教職課程の開設を4年制大学にも認めるよう答申していました。従来短大の教職課程で得られる「2種免許」を特例的に4年制大学にも拡大するもので、留学などを経験した多様な人材を教員として確保する狙いがあるそうです。

現状の教職課程では、4年制大卒で1種免許を、短大卒で2種免許を取得できます。1種免許では幼稚園から高校まで、2種免許では幼稚園から中学校まで、それぞれ教えることができます。1種免許の取得には51~59単位の修得が必要なのに対し、2種免許は31~37単位で済むのですが、どちらの免許でも小中学校で担当できる教科や業務は変わりません。

これまで4年制大学では、教育学部以外の学生が教職に関心を持っていても、留学や他の資格の勉強などとの両立が難しいことを理由に、教員免許取得を断念するケースが多々あったと文科省は考えているようです。

2種免許の教職課程を大学に導入することで学生の負担を軽減し、福祉や心理などの専門分野の勉強や語学力の習得と、教員免許の取得を共に目指せる態勢を整えたい、というのが文科省の考えのようです。文科省は25年度の新設に向け、来年度に課程認定基準などを改正した上で、希望する大学から申請を受け付ける方針だそうです。

この話の背景というのは、皆さんご存じの教員の人手不足です。近年は全国的に教員志願者の減少傾向が続いており、高い教育の質の維持が喫緊の課題となっています。2022年度の公立小学校教員の採用試験の倍率は2.5倍と過去最低を記録しており、教員のなり手不足は深刻化しています。

でも結論を言ってしまえば文科省の認識は「見当違い」であり、この方策は本質的な目的を達成できずに終わる(つまり教員免許取得者は多少増えても、肝心の教員採用試験受験者は減り続ける)可能性が高いだろうと、私は考えます。

そもそも教員志願者の減少傾向が続いており、教員採用試験の倍率低下が続いているのは事実ですが、教員免許の取得者数は若者人口の減少を考えると意外と健闘しているのです。

足らないのは教員免許取得者ではなく、教員志願者なのです。つまり、今どきの若者は希望の就職ができない場合の「保険」として教員免許を結構な割合で取得してはいるけど、彼らは実際に教員になりたいとは思っていない、ということなのです。

なぜこんな事態に陥っているのでしょうか。

(一部の若者から直接聞いた話を基にした仮説ではありますが)「今の教育現場で教師としてやっていくことの大変さ」を先輩教師の口コミやSNSまたは報道等によって知ったため、元々は教職に興味を持っていた学生が「自分にはできない」「実際には教師にはなりたくない」と考えているからではないかと思います。

もちろん元々、教職に強い興味を持っていないけど「保険」として教員免許を取得しただけの学生が、「やっぱり教師にはなりたくない」ということで教員採用試験なんかに目もくれない、というケースも少なくないでしょう。でもこのケースは昔から一定数はありました。

だから教員志願者の減少度合いと教員免許の取得者数の減少度合い(もしくは維持具合)とのギャップが非常に大きくなっているのは、昨今の事情があるはずです。それはやはり、1)今の教育現場における教師の労働環境の貧しさと、2)それを伝えるメディア(SNSなどの口コミ)の豊富さ、の2つの掛け算だと考えます。後者についてはどうしようもありません。

だから文科省がすべきことは「教職課程を拡大させて教員免許取得者を増やす」ことに注力することではありません。

彼らが注力すべきは、現職の教員が苦しんでいる3つの問題、すなわち①事務量の膨大さにより日常的に残業が多いこと、②押し付けられて就任したクラブ顧問の活動で土日も費やされて休日が失われてしまうこと、③モンスターペアレントによってつるし上げに遭うリスクがある(または実際にその脅威に直面している)こと、でありそれらの解決策です。

文科省はお門違いの方策で「僕たちだって仕事しています」とアリバイ作りに勤しむのではなく、現場の教師たちが苦しんでいる喫緊の課題を解決すべきなのです。そうすれば、おのずから教員志望者たちも「教育の現場に立ちたい」と意欲をみなぎらせてくれるはずです。