居酒屋はなぜ「休業要請」対象から外されたのか

ブログ社会制度、インフラ、社会ライフ

4月7日に政府は緊急事態宣言を発令しましたが、休業要請の対象業種を巡って、政府と東京都が対立したため、緊急事態宣言に基づく感染拡大防止の具体策が、なかなか確定しませんでした。緊急事態宣言の発令までもたついていた一週間近くの間に、せめて実務的な詰めをやっておけばすぐに動けたはずなのにと歯がゆくてなりません。政府は事態が急を要することを本当に理解しているのでしょうか。

4月10日、東京都は緊急事態宣言に基づく緊急事態措置として、休業を要請する施設を発表しました。それによると基本的に休止を要請する施設は、遊興施設、大学・学習塾、運動・遊技施設、劇場、集会・展示施設、商業施設となっています。要請に応じた中小企業向けに「感染拡大防止協力金」を創設し、通常50万円を、複数軒を休業する場合には最大100万円を支給するとしています。

https://www.ryutsuu.biz/government/m041044.html

 

当初都が主張していた居酒屋は、結局は対象に含まれず、その他の飲食店と共に、営業時間を午前5時~午後8時、酒類の提供を午後7時までにするとしています。要は自粛要請に過ぎません。

これでは多くの居酒屋は、稼ぎ時も外され、稼ぎ頭もないまま中途半端に営業を続けざるを得ない状況に追いやられます。のちほど触れますが、これは飲食店経営にとっては最悪のシナリオです。

そもそもこの休業要請は「オーバーシュート(感染爆発)を避けるための緊急避難」的な措置のはずです。その対象は「3密」すなわち、換気の悪い《密閉》空間、多数が集まる《密集》場所、間近で会話や発声をする《密接》場面の3つの条件を生みやすい施設のはずです。

そう考えた時、各種の商業施設以上に危ないのが居酒屋ではないでしょうか。客と客が隣り合って同じ場所に長時間止まり、アルコール濃度が高まるほどに互いに大声を張り上げて気炎を上げてしまう光景は居酒屋ならではです。確かに接客は配膳以外にはほとんどありませんが、客同士が非常に近距離でコミュニケーションしており、大学や学習塾、展示施設よりずっと「密接」です。

実際、私も数か月前に、仕事相手と業後に食事に行こうかとなった際、当初居酒屋を提案する彼に対し「居酒屋はコロナで危険。イタリアンレストラン辺りにしよう」と変えさせたことがあります。それくらい、居酒屋=コロナ感染に近い、というイメージは大半の人が持っているのではないでしょうか。

ではそんな居酒屋がなぜ休業要請対象から外されたのでしょうか。その理由は定かではありませんが、元々都は含めようとしたのに政府が否定的だったという経緯があります。背景には政府関係者から見たときの「勝手な理屈」がありそうです。

まず、似たような夜の飲食を伴うキャバレー、ナイトクラブ、バーなどは今回の休業要請対象に含まれ、補償対象でもあります。でもこれらの飲食施設の利用者は比較的お金持ちや社会的地位の高い人たちが中心です。こうした店をつぶさないでという有力者からの声が届いているのでしょう。

それに対し居酒屋の客は基本的に庶民です。彼らからの「店をつぶさないで」という声は政府には届いていないのでしょう。政府のお偉方からすれば休業補償をしてあげる価値もないといったところでしょうか。

当初は都単独でも広く網を掛ける格好で休業要請をするような勢いでしたが、政府からストップされたのは「他県に客が移動してしまい、却って感染を広げかねない」という建前上の理由があったと推測されます(麻生さんが本音を漏らしたように、都ほど財政に余裕のない他県ではあまり休業補償対象を広くできないだけです。その意味で他県でも数の多い居酒屋は悩ましい存在なのでしょう)。

確かに東京都の居酒屋だけが休業することになれば、感染した客までが周辺の県に流れてしまいかねません。そこで出たのが「休業要請はせずに、営業自粛および営業時間の短縮要請」というアイディアだったのではないでしょうか。これなら休業補償はいらず、しかもどうしても飲みたい客も他県にまで移動せずともとりあえず飲めます。しかも盛り上がって大声を出して隣客への飛沫感染のリスクを高める前にアルコール提供をストップできます。都も歩調を合わせざるを得なかったのでしょう。

一見よさそうなアイディアですが、こんなので居酒屋の経営は成り立ちません。

少しでも日銭が欲しくて営業しても(そのためには少なめに抑えるとしても材料仕入れは必要です)、来店客はごくわずかで、地代すら、もちろん人件費も払えないでしょう。真っ赤っかの赤字です。そうした状態が2月以上続けば倒産する店が続出します。休業要請の場合なら材料仕入れもアルバイトもストップでき、補償も入るのでもう1~2ケ月持ちこたえられるかも知れませんが、「営業自粛」は経営にとっては最悪のパターンなのです。

そして政府関係者はそうしたことに気づかないふりをしているのでしょう。「経済を崩壊させない、失業を急増させない」という大きな目的を見失った、政府の迷走がまた繰り返されたようです。