中国の磁石技術禁輸措置はまさに「盗人猛々しい」話

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読売新聞の報道によると、中国政府がEVや風力発電に必要なレアアース磁石の製造技術について、「国家安全」を理由に輸出禁止する方針を打ち出そうとしているとのことです。

より具体的には、産業技術の規制に関するリスト「中国輸出禁止・輸出制限技術目録」の改訂作業の中で、製造技術の輸出を禁止する対象として、レアアースを用いた高性能磁石である「ネオジム」「サマリウムコバルト」などを追加する見込みなのです。

ご承知だと思いますが、磁石はモーターの性能を大きく左右し、そのモーターはEVのほかにも航空機、ロボット、携帯電話、エアコンなど、現代社会で必要とされる電気製品や通信機器で大いに使われており、今後はさらに利用拡大が見込まれています。逆に言うと、磁石の供給が途絶するような事態になれば現代生活を維持することが難しくなってしまうのが現実です。

高性能磁石製造の業界では、ネオジム磁石だと84%、サマリウムコバルト磁石だと90%以上と、中国産が圧倒的世界シェアを誇ります。ちなみに日本はそれぞれ約15%、10%と健闘はしていますが、将来的な展望としてはかなりの不安があります。

これは中国得意の、「サプライチェーンの源流部分を押さえ込んで、国としての総合的な交渉力を高め」、米国の「中国閉じ込め」政策を無力化すると同時に、時には個別交渉にて強引な要求を可能にするための武器を持つ、という高等戦略ですね。

中国が製造技術を禁輸すれば、磁石メーカーを持たない米欧諸国は磁石ひいてはモーター等の供給に関し中国の言いなりになりかねないのです。いかにも「相手の足元を見る」ことができるようになるための、効果的な「国家安全保障」戦略です。ちなみにこれを「卑怯だ」と非難するのは、ある意味「負け犬の遠吠え」か「ごまめの歯ぎしり」に過ぎません。

そして中国だからダメで米国ならOKというのもフェアではなく、いかにもダブルスタンダードです(個人的な好き嫌いは別にして、ですが)。特に米国はこうした戦略を第一次世界大戦後から効果的に駆使しています。例えば米ドルやSWIFTネットワークの利用を、ロシアのような無法者に対してすら効果的な脅し道具として使ってきました。

とまぁ、ここまでは「もし他の条件に問題がなければ」という話です。実は、中国がここまでの絶対的な「レアアース大国」かつ「磁石製造技術大国」になった過程において、中国側のとんでもないアンフェアな行いが積み重なっているのです。

日本政府は、レアアースを応用して製造した高性能磁石が各種兵器に利用できることから、「キャッチオール規制」(軍事転用が可能な貨物や技術の輸出管理について幅広い規制を可能とするもの)の対象に磁石を2012年に追加しています。

これにより技術流出につながりやすい中国での現地生産の動きは一時的に止まったのですが、2014年頃に日本のメーカーが中国に進出し、合弁企業を設立して現地生産が開始されました。その後のストーリーは推して知るべし、です。

その後、先端磁石製造装置も中国に大量に売却された結果、合弁相手に加え中国の地元メーカーが技術力を急速に高め、安価な高性能磁石が大量に出回るようになったのです。中国勢の中には、テスラの駆動用モーターに使われる磁石の95%以上を供給するまで成長したメーカーがいるくらいです。一方で先行していたはずの日本メーカーは過当競争にさらされ、急速に競争力を落とす結果を招きました。高速鉄道や太陽光パネルでの経緯と瓜二つです。

そして、とりわけ「産業のコメ」である半導体の製造では、何としても「前車の轍」を踏む訳にはいかないと日米両国の首脳が考えているのです。それが、「米韓台の半導体製造技術」と「日蘭の半導体製造装置」のそれぞれ最先端のものを中国に輸出させない、というこれら国家間の合意につながっているのです。

決して成長著しい中国への嫉妬から来る「いじめ」などではありません。中国に最先端半導体製造技術を持たせたら、いずれどんな手を使ってでも独占化を図り、やがて世界を意のままに操ろうとするだろう、という懸念がぬぐえないからです。あの国には幾つもの「前科」があるのです。

話を戻すと、今回の輸出規制リストの改訂において中国がやっていることは、日本から流出した磁石製造技術をあたかも自国が開発した独自技術であるかのように装って、世界に対し「勝手に使うな」と宣言しているということなのです。

これを「盗人猛々しい」行為だと言わずして何をや言わんという振る舞いではありませんか。この点にこそ猛烈な非難が向けられるべきなのです。