世界の詐欺師がネットに乗ってやってくる

グローバル

国内だと詐欺の主な狙いは高齢者だけど、ネット上では事情は別。現役バリバリ?LinkedInやってる?英語得意?ハイ、あなたも狙われています。

以前、本欄のコラムで、SNS、特にLinkedInでの詐欺話について幾つか例を挙げて警告しました。
『実名のはずのSNSにも詐欺師は出没する』
http://www.insightnow.jp/article/8019

実はその後も、似た様な怪しい「お誘い」がLinkedIn経由で入ってきています。しかもこの半年余り、色々と手の込んだパターンが生まれており、ネタとしてなかなか面白いのと、他の人が万が一にも引っ掛からないように警鐘を鳴らす意味で、続編としてお伝えしたいと思います。

1つの典型的パターンは、こちらの興味または同情を引くストーリーを提示してくることです。従来よくあったのは、「(アフリカの)○○国の王族の一員だけど、クーデターで追われてしまい国外亡命中なので、隠し資産を引き出すために第三国であるあなたの口座を経由させて欲しい」というものでした。でもこれだと同情はされないし、ちょっと危険な感じがしますよね。そこで「力になってあげたい」と思わせるストーリーを懸命に色々と考えてくるのです。

小生が出遭った実例の一つでは、元ハーバード大研究員で台湾在住と称する米国人がコンタクトしてきたので、「承認」をして詳しいメッセージを受け取ることになりました。「(台湾の有力政治家であったが今は失脚している)T氏の側近をしているが、彼の助けになってもらえないだろうか」というのです。いわく「T氏は今、政敵の謀略により有罪判決を受けて収監され、しかも資産凍結されて身動きができない。司法取引し国外亡命するために某外国銀行にある匿名名義の資産を第三国経由で受け取りたい。ついてはその経由先になってくれないだろうか?謝礼はもちろん十分出すし、迷惑は掛けない。親日家であるT氏を助けて欲しい」という趣旨でした。

この背景事情は客観的事実に即しているようでしたが、やはり本質的にはよくある詐欺話と同類です。そもそも台湾好きとはいえ、なぜ自分なのか、疑問が湧きました。そこで、そのあたりに通じている台湾の友人に「こんな話があるけど、どう思う?」と尋ねてみました。すると、「確かにT氏は収監されており、その国内・海外資産は凍結されている。でも政権側が許さないので司法取引はあり得ないし、仮にそうした依頼をするなら海外にいる親族か、その友人の口座を経由させる」という返事でした。なるほど、では、この話は口座情報等を引き出す詐欺の一種か、またはマネーロンダリングに一枚咬ませるつもりだな、と納得した次第です。

もう一つのパターンは(前回も少し触れましたが)、「この名字の人をようやく見つけ出した。実はあなたと同性の外国人資産家が、当銀行に巨額の資産を預けたまま死亡した」というパターンです。身寄りがないので、このままでは国家に没収されてしまう、というのはそれまでと同じです。でも今回は、「国家に没収されてしまう前に銀行の幹部たちが山分けしてしまう」というのがありました(実際あるかも知れないな、と思わせます)。「その前に国外に移したいので一時的受取人になって欲しい。数億ドルの資産は山分けしよう」という話でした。この類の誘いを送ってくるのは大抵、自称・銀行家(しかもプライベートバンキング部門の幹部など)です。

このパターンで進化しているのは、この銀行家のプロファイルやネットワーク先がしっかりしていることです。所属するという中東やら欧州の銀行のホームページでチェックすると(相手の誘導に乗らないよう、検索して辿り着いています)、LinkedInに表示されている当人の顔と同じ写真がOur management teamとかいうページに載っており、実在の人物と分かります。

「あれ、では本当にこんなウマイ話があるのかな」と思う人もいるかも知れません。でもうっかり乗ってはいけません。これ多分、その後に口座番号やメールアドレスなどの個人情報を盗み出すための誘導の可能性がまず高いですね。仮に本当にご自分の銀行口座を使わせることになったら、立派な国際マネーロンダリングであり、片棒を担げば国際犯罪に問われます。

しかしこの話、小生の場合、まず通じません。というのは小生の名字は国内で出遭うことさえ珍しいのに、海外在住で、資産家で、身寄りがないまま死亡?そんなバカな、と端から疑って掛ることができるのです。でも外国人の詐欺師には日本人のどんな名字が珍しいのか、ありふれているのか、判断がつかないから仕掛けてくるのでしょう。

実際そうこうしているうちに、同様のコンタクトが日本人銀行家からも届きました。しかもわざわざ英語で。その実在する邦銀は日本語ホームページでは役員の名前すら出していませんが、海外向けの英語ページでは役員の名前と経歴を出しています。それはLinkedInに書いてある、その銀行家のプロファイル情報とまったく同じです。それでピンと来ました。

つまりこういうことです。赤の他人の詐欺師が当人を騙ってLinkedIn上で堂々と友人を作って、見掛け上の業界人ネットワークを作り上げているのです。

ご当人はきっとある程度年齢も行っており、LinkedInを使うこともないのでしょう。自分を騙るニセモノが活発に動いてネットワーキングをしていること、ましてやマネーロンダリングの誘いを日夜出し続けているなんて、当人も友人も全くご存じないのでしょう。でも、もしかするとどこかで噂になっているかも知れません。「○○銀行の誰々さんはヤバイことを陰でやっている」と。これもまた迷惑な話です。その銀行のご当人に警告して差し上げようと思ったのですが、銀行の日本語ページには部署名も連絡先も書いてありませんので、止めました(へたに本店代表電話に掛けて、こちらが詐欺師の一味と勘違いされては敵いませんから)。

なぜこうした詐欺師たちが次々と小生にコンタクトしてくるのでしょうか。知らなかったとはいえ、詐欺師たちと「友人承認」をしてしまったためでしょうね。そして英語で何度かメッセージのやり取りをしているので、「反応あり」(ターゲット予備軍)と彼らのデータベースに記録されているのでしょう。まったく迷惑な話です。

怪しいオファーをしてきた連中はそのあとで「友人」登録から削除したのですが(そもそも大半は、無視しているうちに、いつの間にか登録抹消されています)、まだ残っているのかも知れませんし、もしかするとハブの役割だけ果たす人間もいるのかも知れません(LinkedInは友人の友人を自動的に紹介する仕組みになっています)。

ちなみにLinkedInというビジネス向けSNSは、こうした怪しい人物ばかりの溜り場というわけではありません。人脈づくりを支援したり、協業先を探したりするのにもちゃんと役立ちます。事実、小生の会社にも時折外国企業から仕事の問い合わせや商材の売り込み、協業打診などが舞い込んできます。これは「僕ね、今こんな食事をしてるんだ!」といきなり訳の分からないプライベートを見せつけられるfacebookより、よほど有用ですよね。