トランプ関税に関する続きです。
日本向けの相互関税を1%引き上げ25%と宣言し、交渉期限を7月末にまで引き延ばしたうえで、「再延長はない」とXで宣言したトランプ米大統領。他にも同様の宣言をされた国は多いですが、この期に及んで引き上げられたのは日本とマレーシアぐらいです。
多分、「先行して交渉を始めさせたのに、ちっとも確定しようとしない」という日本に対する苛立ちも漂わせています。元々は組みやすいと見立てた日本を先例にして片っ端から決着させようと考えていたのに、意外と日本が粘って交渉を続けようとしていること自体が想定外なのでしょうね。
しかも何度も赤沢大臣が渡米して押しかけてきて、判で押したように「自動車の追加関税(25%を提示)は困る」とだけ主張するけど、大した交渉の追加カードを切る訳でもないことに、余計に苛立っているのでしょう(ベッセントやラトニックらはその無駄なしつこさに「勘弁してよ」とトランプに泣きついているようです)。
結局、日米間での関税交渉はほとんど前に進んでいない模様です(新聞の多くは政府関係者の希望的観測を真に受けていましたが、私は信じていませんでした)。
日本は造船技術の提供や天然ガスの輸入拡大、米国産輸入車の審査の簡素化、既に決着した日鉄からのUSS買収・投資&技術供与、そして防衛予算増(といってもGDPの2%ですが)など、既にありったけのカードを早めに切ってしまっています(「このままでは米国債を売らざるを得ない」とブラフを掛ければいいのにと私は思ってしまいますが)。
米国側は米国側で、コメなどもっと色々と好条件を引き出せると踏んでいたのに(日本の参院選で)日本側の妥協が得られないものですから「当てが外れた」状態で苛立っています。選挙が終わってから交渉を再開しても10日間弱で決着できるとはとても期待できないでしょうね。
そもそも日本側の見込みが甘かったことは否めません。どうせTACO(Trump Always Chickens Out)だと期待していたのに、米国での物価上昇が起きず、債権相場下落(利子上昇)も株価下落も起きてきません。そのためトランプも妥協せずに突っ張り続けています。
なぜ米国での輸入物価上昇が起きていないのか、それは最近の貿易統計(特に自動車の)で判明しています。数量が変わらず金額は減少しているのです。つまり米国の輸入業者に渡った時点でメーカー(または日本側の輸出業者)が関税分を値下げしているのです。
典型的に日本車メーカー辺りは、関税分を上乗せした価格で米国内のディーラーが売り出すと、消費者が買い渋ってシェアが下がることを嫌っているのです。短期的に関税交渉が妥結するだろうと期待して、それまで我慢すればいいとの判断でしょうね。
本来なら関税は米国内の消費者が負担するもので、だからこそ物価上昇すなわち再びのインフレを招く、と恐れられていたのです。でもこの我慢のせいで米国内の販売価格は値上がりしていません。
トランプが以前言っていました。「(今回の)関税は消費者じゃなく彼ら(外国の業者)が払うから心配しなくていい」と。これを聞いて日本の識者たちが「トランプはやっぱり経済オンチで、関税の仕組みすらも分かっていない」と小馬鹿にしていました。
でも事はトランプの思惑通りに推移している訳です。アホは(トランプではなく)その意味を読めなかった「識者」の連中のほうだったようです。
でもこうなってくると、日本のメーカーや輸出業者の自己防衛の努力の結果、トランプが妥協を余儀なくされる場面が遠のき、結局彼ら(日本のメーカーや輸出業者)の首を絞めることにつながっているのです。なんとも皮肉な展開です。