デサントに欠けた「資本の冷徹な論理」の認識

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ここ最近、スポーツ絡みの仕事が幾つか続いた関係で、スポーツ業界についても注意深く見聞きするようになっています。

DX(デジタル変革。Digital transformationの略)についてはアディダスやナイキが先頭を走っているのですが、中国企業や韓国企業などもチャレンジャーとして目立つようになっています。日本企業ではミズノが野球などではMAQとか出していますが、あまり目立ちません(むしろ富士通などが頑張っています)。

その中でユニークな活動をしているのがデサントで、日本系スポーツ関連企業としては期待値の高い企業でした。https://japan.cnet.com/article/35129021/

しかしそのデサント、最近の報道では大株主の伊藤忠商事から敵対的TOB(株式公開買い付け。Take-Over-Bid)を仕掛けられており、ちょっとした騒動になっていますね。両者の表向きの言い分と、経緯から分かる感情的行き違いのギャップがよく分かります。http://news.livedoor.com/article/detail/16000779/

伊藤忠の言い分は「デサントの経営は韓国事業の一本足打法」という経営手法への非難であり、その経営方向を修正するため関与を強めるということです。デサントは「相談もなしにいきなりTOBとは遺憾だ」ということと、「韓国市場だけでなく母国・日本市場はもちろん、中国市場にも力を入れている」というものです。

つまり両者とも直近のことだけで非難をし合っております。でも本音はこの10年くらい、両者の経営陣はかなり感情的にもつれてしまっているようです。

元々デサントはアディダス・ブランド品の販売で伸びてきたのに、アディダスが自社直販で日本市場に進出することを決めた際に、経営危機に陥りました。これが一回目の経営危機。その後、リーマンショックの際にも2度目の経営危機に陥りました。この2度の経営危機を伊藤忠の支援で乗り切った経緯があります。その結果、資本注入した伊藤忠が今や30%ほどの株式シェアを占めます。

経営危機を脱したデサントはその後順調に業績を伸ばしてきました。その間、今度は投資回収だとばかりに伊藤忠は自社との取引額を増やすようにデサントに何度も要求しましたが、デサントはかなりシビアに要求を断り続けたようです。

伊藤忠からすれば「苦しい時に助けてやった恩を忘れた」デサントの経営陣は恩知らずであり、許せない存在になっていたようです。事あるごとにデサントに対し取締役の派遣を要求しますが、デサントの経営陣はこれも断ってきたようです。

デサントからすればこの大株主の振舞いは「昔の恩と資本をかさに理不尽な要求を突きつけるトンデモ株主」ということになるのでしょう。

こうした場合、本音をぶつけ合って妥協点を探る「大人の解決」をするべく、両者の経営陣が定期的に面談するべきです。伊藤忠はそうした機会を要求し続けていた節がありますが、問題は、デサントがそれを拒否し続けたことです。

今回の伊藤忠のTOBは業を煮やした伊藤忠が強引ながら最後の手段として振り回している「伝家の宝刀」といえます。これで40%の株式を握ればデサントの現経営陣の放逐が可能になります(株主総会での拒否権があるため)。日本市場では敵対的TOBが成功した例は少ないのですが、今回に限っていえば成功確率が高いと小生は見ています。

デサントの経営陣は感情的にもつれた伊藤忠との話し合いを拒否し続けた結果、自らの経営グリップを手放すことになりそうです。残念ながら総合商社が持つ冷徹な「資本の論理」を甘く見過ぎていたのではないかと思います。

それにしてもかわいそうなのはデサントの社員です。しばらくは新商品や新サービスの開発どころではないでしょうし、短期的には業績の鈍化は免れないでしょう(韓国市場での特需は女優人気による短期的なブームなので、長持ちはしないでしょうし)。ボーナスもかなり減るかも知れません。元気のよかったデサントが復活するまで時間が掛かるかも知れません。