ダボハゼ型の「機会主義」はリソースの無駄使い

ビジネスモデル

オーナーがつい飛びついてしまった新規事業が貴重なリソースを食い潰して赤字を垂れ流す。世間には少なくない話だ。しかし不調な本業を中途半端に見放して青い鳥を探すというのがその動機の場合、事は重大で本末顚倒に過ぎる。

「新規事業を考えているのだけど…」という相談希望に応じて訪ねていき、すぐにコンサル契約をすることは滅多にない。経営者や事業責任者に背景事情をあれこれと尋ねた上で、どうしたいのかを併せて確認する。実際のところ、何割かのケースでは結局、「これは考え直したほうがいいですよ」と中止することを薦めることになる。

中小企業での典型例は、オーナーが知人からの儲け話、または記事やセミナーなどで「これが世のトレンド!」「間違いなく儲かる」といった情報につい乗ってしまった場合だ(大企業の場合には全く違うプロセスを経て新規事業が検討されるが、それでも調査の結果、「止めときましょう」となることが時折ある)。

大抵は、本業はそこそこ儲かってはいるが少しずつ競合が激しくなり利益が出にくくなっている事情があり、何とか他の事業での柱を確立したいという焦りが経営者に強くある。そのため隣の芝生が青く見えるのだ。

そういう中小企業オーナーや起業家の場合、同じような事情で手を出したまま開花していない新規事業が他にも2つ3つあったりする。これを小生は「ダボハゼ型経営」とか、あるいはもっと上品に「機会主義」と呼んでいる。当然、キャッシュフローと赤字を垂れ流しているし、人材や資金、経営者の時間という貴重なリソースの無駄使いだ。

中には、新規事業に人をアサインしたが、本格投資にはあまりに巨額の投資が必要と分かり、調査ステータスのままずっと継続している例さえ目にしたこともある(もちろん小生は調査打ち切りと、そこに携わっていた人材を本業立て直しに投入することを強く薦めた)。

不思議なことにニッポンの中小企業経営者には、本業がレッドオーシャン化しても全く対処しない人たちと、レッドオーシャン化したことに大慌てして他の場所を探すことに大わらわになる人たちが少なくないようだ。

レッドオーシャン化したはずの本業にも、よく考えてみると様々な切り口で(例えばセグメントを切り直す、隣接市場に展開する、新カテゴリーを創造する、競合や関連事業者と戦略提携する、等々)競争力アップの可能性はあるし、本業を再定義して立て直す(ビジネスモデルを変える等)手もあり得る。

今まで長い間成り立っていた事業であれば、顧客ニーズがあって市場が成立しているということだ。これがどんなに素敵なことか、日々新規事業に取り組む我々には身に沁みている。知識もスキルもノウハウも不足する新規事業より、ましてや世の中にまだ確立していない純粋な新規事業より、本業の立て直しのほうがよほど成功の確率は高いはずだ。

したがってまずは本業を立て直すことに全力を注ぐべきだというのが、新規事業コンサルを主に手掛ける立場ながら小生の見解だ(昔の著書『フォーカス喪失の罠』でもしつこく指摘していた)。

本業はそれなりにしっかりとしているが、そこで得た技術や知見、ネットワークを生かして別の切り口で新事業を生み出したいという前向きな話なら、ご相談はいつでも歓迎だ。