クリーンエネルギーは地産地消に発想転換せよ

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(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************

三菱商事の洋上風力撤退は、日本のエネルギー戦略が岐路に立っていることを象徴している。大規模集中型モデルの限界を直視し、小型化・分散化を軸にした「地産地消」の仕組みへと舵を切るべき時期が来ている。

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1. 三菱商事の撤退と小型風力発電の可能性

先頃、総合商社の三菱商事が洋上風力発電事業からの撤退を表明した。莫大な建設コスト、長期化する環境アセスメント、送電網接続の課題など、構造的な困難が重なった結果だ。これにより「大規模集中型」の再生可能エネルギー事業の限界があらためて浮き彫りになった。

一方で、風力発電そのものの将来性が失われたわけではない。発想を大規模から小規模へと転換すれば新しい展望が開ける。

たとえば小型風力発電機であれば、設置場所の制約が少なく、建設・メンテナンス費用も圧倒的に低減できる。日本には、微風でも発電できるし台風が来ても壊れない、独自の垂直軸型風車を開発したチャレナジーをはじめ、優れた小型風力発電技術を持つ企業が存在する。

これらは学校や公共施設、地域の工場などに分散的に導入可能であり、天候条件さえ乖離しなければ、地域社会が自らの電力を自ら生み出す「地産地消型エネルギー」の中核を担い得るものだ。

国家的プロジェクトとして整備される大規模洋上風力に対し、小型風力は電源の多様性とレジリエンスを高める存在となる。

2. ダム水力の限界と小水力発電の潜在力

ダムによる水力発電は、低い運転コストと安定的な電力供給から「理想的なベース電源」と呼ばれてきた。

しかし、現実には新規ダム建設はほとんど不可能に近い。高額な建設費に加え、環境破壊や地域住民の反対が避けられず、もはやエネルギー政策の選択肢にすら挙がらない状況である。

だが、日本には大小の河川が全国に広がっている。これを活かした小水力発電には大きな余地がある。出力数百kW規模の発電所でも、地域の学校や役場、農業施設などの電力をまかなえる。小水力発電は昼夜を問わず安定して稼働するため、風力や太陽光の変動を補うベース電源としての役割も期待できる。

もし日本全国に小水力発電所を分散設置すれば、地方ごとの電力自給率を飛躍的に高められる。

都市部では難しくとも、既存の大規模発電所から遠く離れているが故に送電コストが高くついてしまう地方の山間地や農村地帯に対しても、地元に眠る「未利用エネルギー」を掘り起こすことができれば、地域経済の活性化にも直結すると同時に、日本社会全体のエネルギー配給コストを大きく下げることができるのだ。

3. 原子力の小型化とSMRの時代

原子力発電は、その安全性と社会的受容性の問題から長年議論が続いてきた。福島第一原発事故が示したように、大型炉はひとたび制御不能に陥れば甚大な被害をもたらす。最大のリスクは「巨大過ぎて制御できない」という構造的欠陥にある。

その反省から、世界の潮流は「小型化」へと移りつつある。小型モジュール炉(SMR: Small Modular Reactor)は、従来の原発に比べて出力を大幅に抑える一方で、安全設計を徹底した新世代の原子力技術である。

冷却系統のシンプル化や受動的安全機能の導入により、災害時にも暴走リスクを極小化できるとされる。現在、米国や欧州、中国など世界各国で研究開発が急速に進んでおり、2030年代には商用化が進展する可能性が高い。

SMRは数万世帯規模の電力を供給できる出力を持ちつつ、工場でモジュール生産が可能であり、必要に応じて複数基を組み合わせられる「レゴ型」電源でもある。

こうした小型安全な原子力を地域単位で導入することは、再エネの不安定さを補完しつつ、日本社会の大きな負担となり日本経済の大きな不利要素となっている化石燃料依存を減らす現実的選択肢となり得る。

4. 地産地消型エネルギー供給への転換

小型風力、小水力、SMR——これらに共通するのは「小型化」と「分散配置」という方向性である。

従来のように巨大な発電所を一カ所に建設し、長距離送電網を通じて遠隔地へ供給する仕組みは、(送電設備を含む)設備の建設費もメンテナンス費も膨大であり、送電過程でのエネルギーロスも無視できない。冷静に社会全体を眺めれば、我々は壮大な無駄を長年続けてきたのだ。

いま求められているのは、電源を消費地の近くに分散設置し、地域で生み出した電力を地域で消費する「地産地消型エネルギーシステム」への思い切った転換である。

これにより、災害時のエネルギーレジリエンスが高まり、送電ロスの削減、地域雇用の創出、そしてエネルギー自立による地方経済の安定といった多面的なメリットが得られる。

大規模集中型エネルギーから小規模分散型エネルギーへ。この発想の転換こそが、次世代のクリーンエネルギー戦略には不可欠だ。

5.結論

三菱商事の洋上風力撤退は、日本のエネルギー戦略が岐路に立っていることを象徴している。大規模集中型モデルの限界を直視し、小型化・分散化を軸にした「地産地消」の仕組みへと舵を切るべき時期が来ている。

風力、水力、原子力のいずれも、小型化技術はすでに現実の選択肢となりつつある。これらを地域ごとに適材適所で組み合わせ、送電ロスを抑え、災害にも強いエネルギー網を築くことこそが、持続可能で安全な日本の未来を支える。

「地産地消エネルギー」こそが、これからのクリーンエネルギー政策の核心である。