「ひがみの国」韓国社会は「思いやり」も失ったのか

グローバル

ETV特集で11月9日(土)に放送された「躍進とリストラのはざまで~労使対立にゆれる韓国~」は凄まじい内容だった。

経済のグローバル化の波に乗り、一人当たりの名目GDPがこの20年で3倍近くも増えた韓国。ところが今、労使の対立が深刻化している。その大きな理由に、正社員のリストラが進み、非正規雇用が拡大していることがある。

16年前、アジア通貨危機による国家破たんの危機を乗り切るため、韓国は大企業同士の合併をはじめとする一連の改革を実施。過剰人員を整理するために解雇法制を整備した(これを李・前大統領が自慢げに語っていたが、とんでもない間違いである)。

その後、(日本企業追い落としを中心戦略とする)経済成長の一方でリストラが推進され(なんと55万人が解雇!)、一旦解雇されるとその後は正社員への登用はまずないという。非正規労働者は既に32%。だから警察官などの公務員は、若者の間で人気が非常に高いという(日本と同じだ)。当然、格差が拡大しているし、職場や地域の絆が引き裂かれる事態も生まれている。去年の労働争議は105件。3日に一度は労働争議が起きているということだ。中国並みである。

番組で象徴的に取り上げた造船会社の争議は1年続き、一部の従業員は戻ることができたが、何と会社は組合に対し14億円の賠償を請求した(多分、世界的にも前代未聞)。そして組合幹部として責任を感じた一人が自殺したという。すると何と、怒った組合員の集団は、遺体を先頭に(というか、ぶつけて)バリケードを破り、工場を占拠し、賠償請求を取り下げさせた。何という会社、何という組合だろうか。

自動車メーカー(双龍)の争議も取り上げられたが、これも凄まじい例だ。リーマン後の経営不振、銀行団支援の条件として4割という大幅な解雇が宣言された。その撤回を求めて激しい争議を繰り返す組合。やがてリストラされた元の仲間たちがフェンスの外でデモをしているのに対し、フェンスの内側では従業員が勢ぞろいして「デモをやめろ」とシュプレヒコールを上げる。挙句は両者間でパチンコを使い攻撃し合う。両者の間の絆は徹底的に破壊され、今では街で出会っても目をそむけるという。

遂には警察も乗り出し66人の逮捕者を出し、会社はリストラを貫く。組合は法廷闘争でも完敗に終わった。そして組合に対し、会社と保険会社だけでなく警察からさえも損害賠償が行われた(!)。組合の責任者は退職金などを差し押さえられ、身動きがとれないという

双龍はその後インド資本に買収され、輸出も好調で再建されつつある。当初は一旦解雇した社員の再雇用もあるといっていたのに、組合員の再雇用については無視しているようだ。争議のあまりの激しさのせいで、元従業員は暴力的と考えられ、今では転職機会もないという。

ひとつ一つのエピソードを知るにつけ、「一体、この社会は何だ」と思わざるを得ない。ここに映ったのは「自分たちさえよければいい」という利己主義者ばかりだ。弱者に対する「思いやり」と最も遠い社会であり、(日本が決して真似をして欲しくない)中国・米国と同じ弱肉強食の社会だ(米国はまだ富裕層に慈善を行う習慣があるだけましかも知れない)。一体、儒教精神はどこに行ってしまったのだろう。日本に対するひがみ根性だけが問題だと思っていたが、同胞に対してもこんなに酷い仕打ちをするのか。こんな国の人たちと本当に仲良くなれるのだろうか、いや仲良くなる意味があるのだろうか。真剣に悩んでしまった。