韓国が親日に切り替わるなどと幻想を抱いてはいけない

グローバルブログ

3月9日に投票が行われた韓国大統領選挙では、保守系の最大野党「国民の力」のユン・ソギョル氏がわずか0.73ポイントの差で革新系与党のイ・ジェミョン氏を破り、当選しました。

ユン氏は日韓関係について、「両国間の懸案の包括的な解決を目指す」として改善に意欲をみせていることから、日本国内では「日韓の隣国関係改善のよい機会だ」「日本側からも積極的にアプローチすべきだ」という声があちこちで上がっています。本当にそうでしょうか。

まず、ユン陣営の最大の勝因としては、政権交代を望む若年層の支持、とりわけ若い世代の男性の支持を取り込むことに成功したということだと思います。61歳のユン氏と36歳で党代表を務めるイ・ジュンソク氏がタッグを組むことによってある種の世代間連合のような体制をうまく作ることに成功したのです。逆に、家族(妻・息子)の様々な疑惑がイ氏の足を引っ張ったことは間違いありません。

そしてやはりユン氏が検事総長時代にムン政権の汚職体質を徹底的に追及する姿勢を見せたことで、政治体制の刷新に期待がつながれたのです。つまり「日韓関係を改善させるべきだ」というユン氏の主張はそもそも声高に語られておらず、有権者がそれを支持して当選した訳ではありません。

もちろん、イ・ジェミョン氏が当選していた場合の日韓関係のさらなる軋轢と決定的な破局を当面免れたという意味では、この選挙結果は歓迎すべきものだったと言えるでしょう。何と言っても彼は日本を「敵性国家」呼ばわりしていたほど反日政治家だったのですから。

(注)ここで間違えてはいけないのは、「反日」スタイルを露わにする政治家が個人的に日本を憎しと思っているとは限らないことです。韓国では政治的には「反日」を標ぼうするほうが民衆受けがいいのです。それほど「日本嫌い」の心理が強い国なのです。

でもだからといって、ユン・ソギョル氏が言う「日韓間にある諸問題を、指導者のリーダーシップによって包括的に解決していく」というようなことが現実的かどうか、そしてその話に日本政府も乗ることが日韓関係にとって本当によいことかは、彼の政治的方向性とはまったく別問題なのです。

まず、何といってもユン・ソギョル新大統領の政治的立場はかなり非力です。

今の韓国の国会はほぼ6割がムン現政権の与党「共に民主党」が占めており、ユン新大統領は圧倒的な少数与党の体制を強いられます。色々な重要な法案を国会で通して初めて新しい政権の政策を展開していくことができる訳ですが、間違いなく多数派野党としては嫌がらせをして機能不全に陥らせることが有効な政治戦術ですし、ましてや「憎っくき日本」と妥協しようというユン氏の政策に賛成してくれる野党議員が続出するはずがありません。彼らは主義主張というより国民にウケる日本叩きをしたいのですから。

選挙で薄氷の勝利だったこともあり、野党議員としては「何だよ、半分の支持しかないくせに」と端から小ばかにした態度で新政権に臨むでしょう。非常にぜい弱な支持基盤で国政を運営していかなければならないのが新しいユン政権の宿命なのです。

つまりユン氏が何かムン政権の反日政策を転換する具体策を打ち出した途端に、それは国会で潰されるのは目に見えているのです。しかも韓国の国会には解散はありませんので、この状況が2年間(つまりユン氏の任期の4割)は確実に続くのです。

国会の反対を押し切って「日韓関係は大事だから方向転換すべきだ」と国民に直接訴えても無駄です。そもそも韓国社会の主流派たる40代50代は革新系のイ・ジェミョン氏を支持という傾向が顕著だったのですから、大きな賛成の声につながるはずもありません。

つまり韓国国民の大半が「日本人は嫌い」「日本人に対して妥協的な態度を示すことが嫌だ」と考えている現状では、いくら日本が韓国の新大統領の政策転換に乗ろうとしても、ほとんど前進しないまま頓挫することが火を見るより明らかなのです。つまり政策転換の期待効果はゼロ、もしくは(なまじ中途半端に期待するだけ失望が大きくて)むしろマイナスに近いかも知れません。

現実的に見て、かつ過去の経験上、韓国の保守派が政権を取る度に、日本では「今度こそ日韓関係を改善するよい機会だ」という声が起こり、韓国に対し非常に太っ腹な「最恵国待遇」ともいうべき特別措置を幾つも取ってきたのです(その背景には、米国からの「中朝に対抗するため、互いに仲良くせよ」という圧力がありました)。

でもその度に、途中で韓国側の事情から(または中国からの裏からの働き掛けも多分あり)裏切られてきたのが、日韓関係の歴史なのです。

もうこの繰り返しは止めたほうがよいと思います。そもそも日韓関係はへたに近寄る度に傷つけ合ってきた歴史があるのです。個人的には、地理的隣国であるからこそ、そして歴史的軋轢があるからこそ、日韓関係は適度な距離を保つべきだと思います。

じゃあ、むしろユン氏の秋波に対し無視を決め込んで、韓国側が徹底的に折れるのを待つべきでしょうか。それも賢明な策ではありません。ユン氏の立場を悪くし、「反日」野党に対し「それ見たことか、日本を信頼するからだ」という類の主張の勢いを与えてしまいかねません。

ユン氏の「日韓関係を改善したい」の呼び掛けには応じて協議は行うべきです。ただし実質的な妥協をユン政権が国会から引き出せない限り、日本側から「飴」は差し出すべきではありません。

そもそも今の日韓関係の悪化のすべての原因は韓国側の無法な解釈や不手際または不埒が引き起こしたものです(とりわけ慰安婦問題、元徴用工問題、自衛隊機へのレーザー照射事件など)。韓国自らが始末しなければ何も始まらないものばかりです。

なので、日本は根気よくユン政権の「空手形」の振り出し協議自体には付き合うが、「実質的払い込み」である問題解決行動が具体的に取られたらその分だけ改善に動くという節度ある態度が求められます。決して相手を煽ったり焦らしたりしてもいけませんし、声高に要求することも大げさに期待することも不適切です。

常に冷静に、かつ冷徹に、「普通の国と国の関係」にまで到達する(つまり今のような敵対的な関係を解消する)ことだけを目指し、それ以上の「親善」関係を求めないことが肝要です。