テキサスで奇妙な中絶禁止法が発効

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私がしばらく暮らした米国・テキサス州で人工妊娠中絶をほぼ全面的に禁止した州法が発効し、全米の論争の的になっています

 

この州法には、大きな特徴が2つあります。一つは、性的暴行や近親相姦による妊娠も含め、妊娠6週目以降の人工中絶をほぼ全面的に禁ずる、その厳格さです。もう一つは、中絶手術・中絶薬の処方を行った医師・看護師、および中絶を助けた一般市民を別の一般市民が訴えるという、その手法です。勝訴すれば1万ドルの報奨金を手にできますし、無関係であろうと誰もが訴訟を起こせます。

 

訴訟社会の米国でこの餌は効くので、州内でこれまで中絶を行っていた診療所の大半がビビって中絶から手を引き、どうしても中絶する必要がある住民は他の州にまで出掛けているとのことです(テキサスは広いので隣州に行くのも車だと日帰りできません)。バイデン政権は何とかこの法律を無効にしようとあの手この手を繰り出しています。

 

「なーんだ、テキサスなんて片田舎でしょ」と思ったあなた、それ勘違いです。この20年ほどで音楽産業やハイテク企業が本拠地やデータセンター、研究施設などを置くようになったため人口と年収総額が急増している全米有数の地域なのです。それにトヨタ自動車が北米本社をテキサス州に移転したことに代表されるように日本企業の進出も激しく、日本人も随分増えているのです。

 

つまりあなた自身または友人が急に転勤を命じられるかも知れない、または既に友人や親せきが家族ごと住んでいるかも知れない土地で、こんな奇妙かつ乱暴な中絶禁止法が成立してしまったのです。

 

銃と訴訟に怯えるだけでなく、レイプされても堕胎できない社会ってどうなの?と衝撃を受けたあなた、その感覚は日本人としてはまともです。でも米国人の約半分は宗教的信念からこの法に賛成かも知れないのです(もちろん、あとの半分は大反対です)。

 

別の州ですが、中絶反対派が中絶を止めない医師を射殺したり、診療所に放火したりといった事件は2~3年に一度くらいは起きます。でも本質的には、母親の命や尊厳を重視するか、宿った命を絶対視するかという価値観の違いなのです。

 

背景には、元々加速していた米国社会の保守化に「トランプ現象」がさらに火を点けたという見方も強いですが、州知事の政治的な仕掛けだという見方もあります。なかなか理解し難いですよね。