Rising Starトルコから目が離せない

グローバル

5月4日放送の「未来世紀ジパング」は“池上彰SP 「親日国」トルコのもう一つの顔”でした。「もう一つ」どころか幾つもあって、それはそれで楽しめました。

最初の話題はとてもいい話。今年2月、和歌山県串本町の沖合、水深12メートルの海底に眠っている軍艦「エルトゥールル号」の遺産の海底調査が行われました。同船は1890年に串本町沖で沈没し、587名が犠牲になったのですが、町民たちの懸命な救助活動で69人の命が救われたという史実で、親日トルコの原点となったものです。トルコの教科書にも書かれた、この感動のストーリーが125年の時を経て両国共同制作の映画になるというのです。既に撮影はクランクアップされたそうで、公開が楽しみです。

2つ目は現地レポートです。イスタンブールを車で走ると、物売りのシリア難民の子どもたちが目につくといいます。現在トルコには170万人を超える内乱の隣国・シリアからの難民が流入しているのです。イスタンブールはシリアとの国境からは非常に離れていますが、商都ゆえにこうした光景が定着しているわけです(ちなみにイスタンブールの日本人旅行者は、後藤さんがIS国に殺害されてから激減しているそうで、現地の商売人は学ぶ言語を日本語から中国語に切り替え始めているそうです)。

ではその最前線、トルコとシリアの国境はどうなっているのでしょうか。この1月末からは日本人の退避勧告が出されているそうです。トルコ国営放送の日本特派員(この人、何度もTV画面で登場しています)が向かってくれました。国境の町には、戦火から逃れてきたシリア人の難民キャンプが溢れていました。想像通り、生活環境としては最低限のものです。

なぜか町中に日本とトルコの国旗が飾られた建物があります。トルコ側の要請で日本が支援し建てられた、318人の生徒が学ぶ「さくら小学校」です。難民の子供たちを「テロリストにさせない」ため、日本が教材から文房具まで支援している、教育プロジェクトの現場です。日本らしい素晴らしい取り組みで、これは少しほっとさせてくれる場面でした。

これとは対照的に、気がかりな動きも報じられました。

トルコは建国以来、他のイスラム教の国々とは一線を画す世俗政策を基本とする方針で自由と民主主義を謳歌し、成長してきました。しかしその親欧米路線にもかかわらずEU加盟は認められず(もっと政治・経済的に劣る国々はキリスト教国ゆえに認められてきました)、最近はEU加盟の旗は実質的には下しています。欧州を見るトルコ国民の目は少々醒め気味でした。

そこに登場したのがエルドアン大統領(前首相)です。彼はトルコの順調な経済成長を指導してきており、その手腕には高いものがあります。しかし一方でガチガチのイスラム保守主義者です。長年の「世俗主義」に異を唱え、同国の政策を修正してきました。いわゆる「イスラム化」政策です。

公共の場でのスカーフ着用などを許すようにしたり、モスク建設を推し進めたりしている辺りまでは特に問題とも思えませんが、夜10時以降のアルコール販売を禁止したり、大統領府を大拡張したり。最近ではツイッター規制に積極的で、さらに政府を批判するメディア関係者などを次々に逮捕させるなど、政権による言論統制も危惧されています。

ここまでくると明らかにやり過ぎです。非常に危険な兆候ですね。インドのモディ首相、タイのプラユット首相と並んで、親日国の最近のトップは少々非民主的独裁性が強い傾向があって、日本としても戸惑いを隠せませんね。

最後に紹介されたのが、日本と共同で取り組んでいるイズミット湾横断橋という大プロジェクト。世界有数の免震技術を持つ日本の橋建築技術が生かされています。そのプロジェクト参加者が語った言葉、「日本とトルコの協力関係、これだけは未来永劫変わらない」。これは本当によいニュースです。