JR北海道が抱える宿唖

BPM

このところ事故と不祥事が連続して発生しているJR北海道。厳しい経営状況がもたらしたコスト削減への脅迫観念が、経営陣の正気と社員の士気を蝕んでいないか。

9月と8月にそれぞれ貨物列車の脱線事故。7月には特急のエンジンからの発煙トラブル。毎月の事故ばかりでなく、7月には運転士が覚醒剤を使用、9月には別の運転士がミスを隠そうと自動列車停止装置(ATS)を破壊、と信じられない不祥事が続く。今回の脱線事故の原因も、保安部署がレール異常を放置していたことにあるという。

一昨年の大事故以来、同社は事故と改善宣言を繰り返してきた。それでも一向に事態が改善に向かわないどころか、明らかに士気低下が原因とみられる不祥事や異常放置が相次いでいるのだ。しかも今回の脱線事故に関する記者会見での同社幹部のコメントは、評論家のそれかと間違うような、当事者意識の欠けたものであった。何か「組織のタガ」が外れてしまっているような印象を受けたのは小生だけではないだろう。

同社は民営化以来、一度も営業黒字を出したことがない。厳しい経営環境など、確かに同情すべき点はある。多分、民営化後ずっとコスト削減ばかり叫ばれてきて、保安にすら十分な手を掛けられない状況が続いたのではないか。
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しかし同社で深刻なのは、事態の背景に保安士や運転士の士気低下が大いに感じられることだ。「安全意識の低下」といった生易しいレベルではないのではないか。国鉄時代には自慢の職業だったのだろうが、今や給与も近所で肩身が狭いレベルになっているのではないか。地道な仕事なので、公共の安全を背負っているという使命感や誇りを失くしては立ち行かない。

小生は以前、業績が長年低迷したためリストラを繰り返した過去を持つ元・名門会社・Aのコンサルティングをしたことがある。JR北海道はそこと何となく似ているのだ。A社の施設は老朽化し、清掃・点検はおざなりだった。古参社員の多くは過去の名声にすがりプライドばかり高く、しかし自ら変えてやろうという意欲はない。業績低迷時代に入社した少数派の若手層は、「僕達なんて」と常に無力感を口にして、(さすがに不祥事は起こさなかったが)後ろ向きの発想しかできなかった。当初は実に厄介だった。彼らが変わるのに必要だったのは、小さな成功体験の積み重ねだった。

振り返って、JR北海道で、もし長年のコスト削減がもたらした士気低下によって一連の不祥事(異常放置、ミス隠し、覚醒剤)が引き起こされているとしたら、その組織体質が変わるのにはやはり成功体験の積み重ねが必要だと思う。それは、乗客と地域に感謝され、利用客が少しずつでも増えることでしか実現されないだろう。

できないことではない。実際、JR九州や他の地方の私鉄など、地域の経済環境は必ずしもよくなくとも、色々な工夫により業績を改善するのに成功しているところはある。まず経営者が今までの「縮み志向」の経営を猛省し、社員の元気とやる気を呼び覚ますため、人々の声を聞き知恵を絞ることから始めるしかない。