GAFA分割論の皮肉

米国で論争を巻き起こしている「GAFA分割論」。大統領選に向け、富裕層を叩くことで「私は中間層の味方です」と主張するための政治的な動きだが、一部の投資家にとっては深刻なリスクとみなされている。実現の可能性は限りなく低いが、もし実現したら…?

 
最近の米国での論争源の一人、エリザベス・ウォーレン上院議員は富裕層叩き(本人は「不公平な富の分配が専門領域」としている)で、若者の間で急速に人気を集めている。彼女の過激な左翼的主張の一つで、最も注目を浴びているのが「GAFA分割論」だ。

今や世界中の個人データを集めて儲けまくっている割に、税逃れに懸命なために欧州各国からは危険視かつ目の敵にされ、中国からは強力なライバルBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が急成長している中、足元の米国でも有力な次期大統領候補からは分割論を浴びせられているのがGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)という訳だ。
あまりに過激な左翼的思想(大半は社会民主主義的な主張なのだが、かなり右傾化してしまった米国では左翼的=共産主義者と見られる)ゆえに、仮にウォーレン上院議員が最終的に民主党の代表候補に選ばれたらトランプ氏が再選されるだろう(米国の選挙民の約半分は「トランプは出来も行状もとんでもなく悪い大統領」と思っているが、共産主義者よりはましと考えるだろう)。

だからこの「GAFA分割論」が実現される可能性は随分低いのだが、頭の体操として空想してみることは面白いかと思う。

「GAFA分割論」というのは、4社が競争を抑止すべく、有力なライバル企業が巨大になる前に買収するという行動を積み重ねた結果、様々な事業体のコングロマリット(性格の異なる事業の複合体)となっているのを踏まえ、主な事業体ごとに分割せよという論だ(そうすれば競争が促進され、GAFAの絶対的優位も脅かされ、ひいては富裕層の持つ株式価値も下がるだろうという富裕層叩きの意図がある)。

例えばAmazonなら、主に消費者向けのネットショッピング事業と、Amazon Web Serviceという主に法人向けのICTサービス事業に分割されることが想定される。4社それぞれでこうした分割が実現したら、一体どういう事態が起きるだろうか。

まず、分割された事業体はそれぞれ個別単体で上場し直す。その際、既存株主には(多分、既存株式はそのままに)新規上場企業体の株式が一定割合で割り当てられる。つまり純粋なIPO(新規上場)ではなく株式分割の形になる訳だ。その両者を合わせた株式価値の総額は、ほぼ間違いなく分割前より大きくなる。

なぜか。主に2つ理由がある。1)いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」(コングロマリット状態の企業の株式は、投資家が実態を理解し難い分だけ割安になること)が解消されることと、2)各事業体の経営者がそれぞれ「本業」に集中でき、業績がさらに伸ばせやすくなることの2点だ(この後者こそ小生が主張する「フォーカス戦略」の意義である)。

他にも「GAFA分割論」が実現すると面白い傾向が生まれそうだ。すぐに考えられるのは、GAFA(およびそれに準ずる巨大ICT企業)が今までのように有力な新規競合潰しのために相手を買収するという行動を減らすため、有力な未上場ICT起業家たちはGAFAに買収されるという出口戦略を諦め、IPOにひた走るだろう。

彼らは成長を加速するため今まで以上に思い切った開発・投資・営業努力を重ね、その結果、市場での競争も激化する代わりに、新しい技術・サービスの開発も加速するだろう。それは株式市場には概ね良い方向となって反映され、富裕層など投資家の持つ資産はさらに膨れ上がる可能性が高まる。

つまりウォーレン上院議員は、GAFA創業者をはじめとして、初期に投資したことで莫大な富を得た投資家などの富裕層を叩くつもりで「GAFA分割論」を主張しているのだが、もしそれが実現すると、彼女が目の敵にする富裕層はさらに富を増やすという結果になる可能性が高いということになる。

皮肉なものだ。