香港の未来はどこに

今年5月28日、中国の全国人民代表大会で中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持保護法(香港国家安全法)が決定しました。香港返還23周年である7月1日には同法が施行されました(無茶苦茶短期間で試行されており、中国の焦り具合が分かります)。そして8日、中国政府は香港に治安機関「国家安全維持公署」を開設しました。中国大陸から派遣される公安捜査員がここを拠点に、初めて公に香港域内で活動することになったのです(実態としてはそれまでも活動していたことはいうまでもありません)。

民主活動家たちの著作が公共図書館から撤去されるようになり、「焚書坑儒」的情報遮断が中国本土だけでなく香港にも適用される動きが明らかです。明らかに香港を一気に中国化しようとしており、中国は「一国二制度」を50年間維持するという国際的約束を踏みにじる「ルビコン河」を渡ってしまったと云えます。「昨日のウイグル(チベットを挙げる言い方も多い)、今日の香港、明日の台湾」は現実味を増しています。

同法の施行を前にして、最大の民主派団体「香港衆志(デモシスト)」も施行前日の6月30日に解散を表明しました。「香港民族陣線」という香港独立志向の高い団体も、香港での活動を止めると発表しました。香港国家安全法の施行を受けて、すでに複数の民主活動家が香港を脱出したり、ソーシャルメディアのアカウントを閉じたりしています。

雨傘運動の中心メンバーだったデモシストのリーダーの一人、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は「香港で民主化運動をすると、命に関わる」と訴えています。やはり同団体リーダーの一人で「民主の女神」と言われる周庭(アグネス・チョウ)氏も解散のことを「これは重く、しかし、もう避けることができない決定です」と嘆き、「生きてさえいれば、希望があります」と言葉を結んでいます。

周庭氏は昨年、デモ参加者をあおって警察本部を違法に包囲させたとして起訴され、罪を認めています。8月5日にも判決が言い渡される見通しで、「今後、収監されるかも知れない」と、香港国家安全法施行後の取り扱いには大いに不安を感じている模様です。とはいえ、彼女は「今後さらに民主化を弾圧する動きは激しくなるだろう」と述べた後、気丈にも「香港という私たちの家を守るため全力で頑張りたい」と述べ、香港の自由を守るための運動を今後も続ける考えを示しています。

彼女のコメントには「胸塞ぐ」という思いしか出てきませんが、一体我々日本人には何ができるのでしょうか。彼女や他の香港市民に対しては我々の無力さに申し訳ない気持ちばかりです。せめて日本政府には「遺憾の意」ではなく「強い抗議」を示して欲しかったですし、間違っても習近平の国賓来日を実現してはならないと強く思います。

昨年の今頃から香港の抗議デモが大規模化・本格化、そして過激化するにつけ、小生は今の事態に至ることを非常に恐れ、facebookなどでは懸念を表明してきました。中国というメンツを重んじる独裁国家がそうした動きで軟化することは考えにくかったからです。

それにしても香港の行く末を案じずにはいられません。香港経済の源泉である観光・金融ともに大打撃を受けるでしょう。

まず、確実に中国化が進む香港を観光客が好むでしょうか。何か間違って犯罪にでも巻き込まれようものなら、へたをすると(中国の公安または暴力組織により)中国に連れていかれるかも知れません。そこまで極端な感覚でなくとも、「中国ではない自由中国」という魅力はすっかり失せてしまうでしょう。

次に、中国政府の意をまともに受ける香港の金融市場を海外投資家は信用するでしょうか。そこに上場する中国企業の情報を信用できるでしょうか。中国政府が裏で手を引く香港政府および香港市場そのもの、そして彼らの規制を公正なものとして、海外の金融機関は受け入れるのでしょうか。発展するアジアの中核市場が必要ならシンガポールに拠点を移すのではないでしょうか(残念ながら東京ではありません)。

長期的に見て、香港市場は上海市場や北京市場のように中国の投資家および中国企業向けのローカルな市場に役割を縮小していくしかないのではないかと思えます。本来なら50年掛けてそうした縮小プロセスを辿っていくはずだった(しかも途中で中国政府が転覆する可能性だってゼロではなかった)のに、30年もしないうちにそれを小走りで行うことになるのです。

こう考えると、今のうちに香港を脱出しようと考える市民が続出することも予想できます。経済的に余裕があればあるほど、そうした行動に出るでしょう。その分だけ香港経済の縮小プロセスは加速します。

昨年の抗議デモが過激化・暴力化する中で「香港の魅力を失わせることで中国が香港のコントロールを諦める」ことを目指す動きが民主派にありましたが(中国政府にはメンツの問題なので、実に愚かな発想でしたが)、結局は同じことになりそうです。本当に香港の未来はどこにあるのでしょうか。