米国の再生は厳しい道のり

1月6日の連邦議会議事堂へトランプ支持者の暴徒が乱入した事件は国内外にショックを与えました。昨年のアメリカ大統領選の州ごとの選挙人団の投票の結果を認定し、ジョー・バイデン氏の次期大統領就任を正式に確定しようとした議会の行動を邪魔しようとしたのです。彼らは窓ガラスを打ち破って議事堂へ押し入り、歴史ある建物内部の様々な部分を打ち壊しました。その過程で議会警官が1人死に、デモ参加者も4人死んでいます(うち1人は射殺、他3人は脳卒中や心臓発作など)。

この件には幾つも驚かされました。議会外でこのデモ隊が大声で議事妨害するまでなら予想の範囲でしたが、その予想をはるかに超え、「ここまでやるか」とその過激さに驚いたのが一つ。そもそもトランプが直前に、明らかにデモ隊をけしかけるスピーチを議事堂前で行っており、その行為の下品さに驚いたのが一つ。さらに米国民主主義の中核である議会を守るはずの警察が当初毅然と対処せずに暴徒のなすがままになってしまった、その脆弱さに驚いたのがもう一つ。

後日の報道によると、乱入暴徒の一部はナンシー・ペロシ下院議長(民主党)のノートPCを盗み出しており、ロシアの対外情報局に売却しようとしていた容疑で訴追されています(容疑者の行方は不明)。この一味がロシアとつながっていることを示唆しています。

昨年全米各地で勃発したBLM(Black Lives Matter)の抗議デモが時々暴発して、地元商店などを破壊・強奪した事件がよく起こりました。反トランプ派の過激さを印象づけるために、ロシアのスパイ活動者が参加者を装って煽っているケースが幾つかあったと私は感じていました。どうもトランプ支持者の一部とロシアの対外情報局はどこかでつながっている可能性が高いようです。

この合衆国議会議事堂襲撃事件により、今回トランプに投票した共和党支持者や共和党議員の一部の間にもさすがに「やり過ぎた」という批判が高まっており、トランプが次期大統領選に再登板する目はほぼなくなったと思えます(上院での弾劾裁判はおそらく否決されるでしょうが、こんなとんでもない事件の後では、さすがに彼を再度担ぎ上げるのは議員たちのリスクが大き過ぎます)。

共和党議員たちの多くも目が覚め、「トランプ党」からの脱皮を図る時が来たようです。前副大統領のペンスやマルコ・ルビオなどの有力議員たちは自身が次の機会を狙うため(または無茶を言うトランプのやり口に「もう沢山だ」と感じて)、党に対するトランプの影響力を下げたいという意識も働いているようです。こうした動きは極めて正常で、少なくとも共和党は少しずつでもましな方向に動きそうです。

一方、トランプ支持者たちの多くは相変わらず「妄想の中」にいるようです。こんな前代未聞の失態を起こして、2度目の弾劾裁判という不名誉にまみれても、トランプ支持者の信念(というか信仰に近いのかも)は揺るがないようです。

彼らはいまだに、トランプは「(伝統的メディアと結託して)米国政治を支配してきたエスタブリッシュメント連中」(彼らは民衆のことなどつゆほどにも考えていない)と戦っている正義の人だ、その連中が操作したため選挙には不正があった、本来ならトランプが圧倒的に勝っていたはずだ、と本気で信じています。こうした妄想を組み立てて一つのストーリーとして信じ込んで、トランプ派の中核グループとして活動している連中が「Qアノン」です。彼らは今後も反バイデン、反民主党の活動を過激にかつ陰湿に続けていくことでしょう。

彼らほど狂信的でなくとも、「選挙に不正があった。本当はトランプが勝った」と信じている共和党員(全国民の1/3)が今でも7~8割いるとされます。つまり「バイデン大統領の正当性」を信じていない人たちが国民の1/4前後いるということです。

このような状況で国民の分断を終わらせUSAの再統合を果たすのは、高齢のバイデンにとっては至難の業でしょう。米国の再生への道は細く険しいと言わざるを得ません。