中国発のウイルスに振り回される欧米

私は週に数回はポッドキャストで米国のニュース局の報道を視聴しています。ABC Night Line、MS NBCのThe Rachel Maddow Show(民主党寄り)、Fox News Sunday(共和党寄り)の3つです。米国民の関心のありかや特徴的な政治の動きを知るのに役立ちます。
数週間前までは新コロナウイルスに関するニュースはほぼ皆無でした。たまにあっても、「野蛮な中国人」がアジアでまき散らしているため、コリアと日本が大変な目に遭っているようだ、程度の認識でした。

それが2週間前くらいから「ヨーロッパで急速に感染が拡大している」「米国でも2次感染者が各地で確認されている」と、急に身近な脅威として認識され始めました。イタリアでの感染者と重篤患者の急増、そしてそれを追うように欧州の他の国々でも感染者数が急拡大している様子を報道するトーンは、「これはアジアだけの問題ではない。西洋人だって感染するんだ」という当たり前の事実に気づいたことで急に怯えだしたようです。

同時に、全米各地で進行している民主・共和の両党の集会(米国では各地で党毎に、住民集会的な形で応援者が演説してから投票するのです)を延期すべき(もしくは電子投票に切り替えるべき)じゃないか、といった議論が沸き起こりました。並行して株式市場の乱高下の振れ幅が非常に大きくなりました。米国内でもマスクが品切れを起こしているという報道が次々に出てきたのも、銃販売店が再び人気だと伝えられたのも(どうやら米国の住民心理としては暴動が起きたり強盗が襲ってきたりするのを警戒しているようです)、この頃です。

それが先週になると、ニュースはコロナウイルス(COVIT-19)関連一色に変わりました。そしてご存じの通り、米国と欧州の往来を禁じる大統領令(これはかなりの経済的衝撃を世界経済にもたらします)や、幾つかの州での非常事態宣言や幾つかの都市での外出禁止令が続出するに至りました。それに応じて株式市場や原油市場が暴落しました。もう完全にパニックですね。アメリカ同時多発テロの時とよく似た雰囲気です。

NYでも一部の業種を除いて従業員に出勤を禁止し、飲食店などの営業はtake outに限るようにクオモ知事が通達したのにはびっくりしました(北京やソウルでも多分、そして東京でさえここまではやっていませんよ)。同時に同市長は連邦政府に「NYをはじめとして米国の大都市では病院が不足しており、このままではイタリアと同じ状況になる。US Armyのengineersの力を結集して病院を建設して欲しい」と要請しました。ある意味、全米の人々が危惧している点を明言したのです。

さすがに全米への非常事態宣言をトランプ大統領が宣言するには至っておりません(多分、全米規模で見た時には大半は非人口密集地帯なので、まだまだ違和感があるのでしょう)。しかし一定以上の都市に対しては全面的に外出禁止令を適用するよう、全米の州知事と市長に対し要請するかも知れません。そしてその動きと予算を連邦政府がバックアップする、万が一暴動が起きたら軍隊を出動させることを約束する、といった宣言を出すかも知れませんね。

とにかくトランプとすると、唯一の実績である「株高」効果が消滅してしまった今、再選に向けてアピールできるのは「最高軍事司令官」というイメージくらいですから。でも従来の世界的な危機に対し米国が果たしてきた救済者的役割を果たそうとすることは考えにくいです。何しろ「America first」が看板ですから。

米国からの医療面での支援は考えにくく、イタリアを除けば欧州各国としては中国からの支援はプライド面からも(「元々の発生地は中国だろう!」という)心情面からも受けたくないでしょう。日本も他国どころではありません。だから医療面はもちろん、様々な交流断絶に伴う経済停滞がこの先は目に見えていますが、欧州は「自力更生」しかないのです。でも国境を互いに閉鎖し合う事態に陥った今、それだけの域内の信頼感と協力関係が保てるでしょうか。EUの存在意義が問われています。