あまり一般には馴染みがないが、マンション管理組合が加入する「個人賠償責任保険(または個人賠償責任補償特約)」という保険(または保険特約)がある。近年大幅値上げされているようだが、その商品設計は一種不可思議なものである。



とあるマンションの管理組合での理事会の席上の話。色々と次期の予算案を検討している中で、マンション総合保険の中の「個人賠償責任補償特約」という項目について大幅値上げを保険会社から要求されていることに関し、素朴な疑問を持ったA氏の質問は次のようなものだった。



「この『個人賠償責任補償特約』というのは当マンションの管理組合では火災保険の特約として従来から入っているようですが、これが今回7倍以上に大幅値上げされています。これは本来、区分所有者各人が入るべき保険に管理組合が一括で強制加入している格好で、その保険特約の掛け金分も管理費から支払うということですよね。そもそも、なぜ管理組合が入らなければいけないのでしょう?」



長老格の理事が答えます。「例えばマンションの階上の人が水漏れ事故を起こして下の人が被害を受ける場合があるでしょ。本来、階上の人が階下の被害者に賠償しなきゃいけないけど、中には何の保険にも入っていなくて賠償できないケースがあるんですよ。そうなると被害者は泣き寝入りしなきゃいけないので、それを避けるためにマンション全体で保険に入るってわけ。当然、水漏れだけじゃなく、例えば子供がうっかり自転車事故を起こして他の人にケガをさせたりするなど、いろんなケースもカバーされているので、使い勝手はいいんだよね」



それを受けて理事長が答えます。「使い勝手はいいけど、全国で災害が続き、保険金を支払うことが増えたことが原因でしょうか、保険会社は今回ご指摘の通りの大幅な値上げを要求してきているんです。また管理費を値上げしなきゃいけないけど、これはどうしようもないかな…」



A氏はここから突っ込みます。「でも待ってください。この但し書きをよく読むと、この保険、なんとマンション外で起きた事故もカバーするとなっていますよ。そんな広い範囲でカバーするから保険料が高くなってしまうんじゃないですか?マンション内の事故だけをカバーするような保険特約にすればいいじゃないですか」



再び理事長が答えます。「Aさん、それがね。実は僕も同じ疑問を持ったので、管理会社の担当者経由で保険会社に幾つか当たってもらったんです。そしたらどの保険会社も横並びで、マンション内の事故だけをカバーするような保険または保険特約なんて無いということなんですよ」



「えーそんな馬鹿な」。A氏は絶句します。



そこにとどめの理事長の一言。「実はここだけの話。この保険特約がカバーするのは、居住者だけです。なんと人に貸している区分所有者はカバーされないそうです。管理費を支払っている、つまり間接的に保険料を支払っている『このマンションに住んでいない区分所有者とその家族』は、このマンションに来た時に何か事故を起こしてもこの保険でカバーされないけど、管理費を支払ってもいない『借りているだけの居住者』は外で事故を起こしてもカバーされるんです」



「???それって一体、本当は何のための保険なんですか?」A氏は呆れて黙り込んでしまった。



「…ねぇ?」。話を振ったはずの理事長も、先ほど必要説を唱えた長老ですら首をかしげている。



とまぁこんな光景が全国で幾つかのマンション理事会や総会で時折繰り返されるのではないだろうか。実に不思議なマンション保険、そして保険業界の話である。



【参考URL】



https://www.mag2.com/p/news/242061

分譲マンションの管理組合で掛けている賠償責任保険の『意外な落とし穴』とは