オフィス労働生産性を向上させるために(8)『働き方改革』の手順を間違うな(1/2)

前回の第7弾の記事では、『働き方改革』におけるICTの役割と留意点をお伝えした。今回と次回では、本シリーズのまとめ的なものとして、『働き方改革』を進めるのであればその手順をきちんと考えて進めるべき、という(極めて当たり前だが往々にして軽視されてしまう)ことをお伝えしたい。

『働き方改革』は大半のケースにおいて業務改革の一種である。すると業務改革の手順を当てはめることが大抵の場合において合理的である。
注1)多少まどろっこしい言い方をしているのは、「実態はともかく、採用に不利にならぬように表面上だけでも『働き方改革』したい」という不純な狙いが主である場合には、このことは必ずしも当てはまらないからである)。
業務改革では概ね次の手順で検討・決定していくと、抜け漏れや後戻りが極小化されるのでお薦めである。
1. 狙い、ゴール、制約条件を明確にする
2. 主たるアプローチを定める
3. 現状を把握する
4. 『大きな改革』部分と『草の根改善』部分を切り分ける
5. 進捗・達成評価軸とモニタリング方法を決める
6. 『大きな改革』部分での取り組みを進める
7. その後、『草の根改善』部分に取り組む
8. 定期的に進捗・達成具合をモニタリング&評価する(そして必要に応じてやり方を見直す)

経験者にはこれで十分伝わるかも知れないが、以下にそれぞれ簡単に補足説明させていただこう。

1.狙い、ゴール、制約条件を明確にする
この「狙い」というのは上位目的であり、前回の記事でお伝えした話なので、割愛する。

「狙い」(上位目的)に対して「ゴール」(=到達目標)というのがどう違うかというと、後者は直接的で具体的であり(できれば定量的に計測できるものが望ましい)、後者の達成を通じて前者が達成できるという関係にある。例えば「従業員の生活の質を高めることで社業に取り組む意欲を高めてもらう」という狙いに対し、「1年以内に残業を前年度平均で半減させる」というゴールを設定する、といった具合だ。このゴールが後述のKGIになる。

「制約条件」のほうは、そのゴール達成に向けて「でもこれは外してくれるな」とか「これは避けてくれ」または「こんなことも考慮に入れて欲しい」といった経営視点での「但し書き」みたいなものだ。例えば先のゴール設定に対し、「でもそのために管理職にしわ寄せが行くようなことではダメだぞ」といった具合だ。これは経営者からきちんとヒアリングしておかないと分からないものなので気を付けて欲しい。

2.主たるアプローチを定める
この「アプローチ」というのは「どんなやり口でゴールを達成するのか」ということ。典型的には、分析手法(いわゆるメソドロジー)などの「考え方」と段階分けなどの「進め方」との組み合わせを指す。
働き方改革の場合には制度の導入・改善も大きな要素として含まれることが結構あろう。絶対的な正解がある訳ではないので、他社の成功例や失敗例を参考にするとよいのではないか。
注2)「絶対的な正解」はないが、「絶対的な間違い」というのはある。「業務改革の専門家」と称しながら、どんな場合にも同じアプローチを適用しようとする人たちはあまり信用しないほうがよい。本来は、業務のプロセスはおしなべて短いが業務数の多い総務などの間接部門に向いた「ABC分析」という手法を信奉するコンサルタントが、同じ手法を直接部門でも強引に適用しようとしたケースを著者は何度も目にしている。これなどは素人を騙すという意味で詐欺に近いほどタチが悪い(ただし本人たちも悪意でなく無知・浅慮によって拘泥していると思われる)。
3.現状を把握する
これは読んで字の如く、「今はどうなっているのか」を調べて理解することである。このときに重要な視点は、業務プロセス上の「どこにどんな大きなボトルネックがあるのか」を漏らすことなく洗い出すことと、初期の解決仮説を適用するにあたって「どんなことが障害になりそうなのか」を現場視点で押さえておくことである。

前者の「ボトルネック」というのは、業務の流れを阻害する状況とその要因のことを指す。現場で細かく見て気づくものと、視点を大きく広げることで気づくものが全く違うこともよくあるので、気をつけたい。

例えば、現場でヒアリングしたら「使っている業務アプリが古くて使いにくい」という意見が多く出てくるかも知れないが(その場合、ボトルネックは「古臭い業務アプリの存在」ということになる)、大きな視点で見れば「そもそもそうした業務は忙しい現場でやる必要がないのでは?」という気づきが得られるかも知れない。

4.『大きな改革』部分と『草の根改善』部分を切り分ける
これはアプローチに含まれることだが、たいていの業務改革ではほぼ必須の考え方なので、あえて明示して切り出している。
前のステップの「現状把握」にて、どこに大きな改善余地があるのか、どんな大きなボトルネックがあるのかを押さえているはずである。ならば『大きな改革』ができそうな部分に対してはトップダウンによるリエンジニアリング・アプローチで思い切った改革を仕掛けるべきである。

例えば、大半の部署で発生しているがバラバラのやり方で対処している業務を全社的にシステムで強制的に共通する(または集中処理する)ことで大きく効率化する、といったものが当てはまる。
そしてこうした『大きな改革』が向かない業務に関しては『草の根改善』、すなわち各現場の創意工夫に任せるというやり方が現実的だろう。

この部分については流行りのRPAが有効なケースも多い。でも完全に放任するのではなく、それぞれの現場での改善内容についてもきちんと全社で管理する仕組み(=BPM/ビジネスプロセス・マネジメント)を取り入れるべきである。そうすれば現場の知恵を共有化して横展開することも可能になるし、継続的な改善を促すこともできる。

話を戻すと、このステップで肝心なのは、『大きな改革』部分と『草の根改善』部分を切り分けるのを現場に委ねてはいけないということだ。そんなことをすれば『大きな改革』の機会を削ってしまうだけでなく、ほぼ間違いなく混乱を招く。きちんと『働き方改革』プロジェクト(または『業務改革プロジェクト』かも知れない)のチームが全体最適視点で切り分けないといけない。
(ここまでで予想外に文章が長くなってしまったので、全体を2回に分割し、この後の記述は次回の記事にしたい)。