オフィス労働生産性を向上させるために(2)やる気を引き出す工夫をせよ

(以下、コラム記事を転載しています) ****************************************************************************

<<「オフィスにおける労働生産性を向上させるために必要なこと」シリーズ。前回は経営者/管理者側からも従業員側からも共通して意識すべき点として、直面する仕事が「本当に付加価値を生んでいるのか」についてよく考えるべきと述べた。第二弾の今回は、従業員が生産性を高めるための指導のあり方、特に「やる気の引き出し方」について考えてみたい>>

オフィスワークに限らないことだが、労働生産性を上げる第一歩は当人がやる気を出して仕事をできることだ。幾つもの研究によると、自分で自分のやる気を引き出せる人は、同輩たちよりも仕事ができ、評価も収入も高くなる傾向がある。

「生産性」に関する研究の第一人者であるチャールズ・デュヒッグ氏は、高い成果を収める人は、自分の時間をどう使い、自分のエネルギーをどう配分するかを、自分で決められる人たちであると主張する。彼らは、どのように目標を設定すべきか、仕事の優先順位をどうするか、自分が関わるプロジェクトをどう進めるべきかを理解しているのだという。

これは直観的にも納得できることだ。やる気のある人はエネルギーにあふれ、高い集中力で仕事に取組み、周りの人を巻き込み、大きな仕事や価値ある仕事をやり遂げる。しかし同じ人が(大切な人を失うとか上司とそりが合わないなどの理由で)やる気を失ってしまうと、これが同じ人かと思うくらい意気消沈して、仕事が進まなくなってしまう。そんな様子を身近で見たことがある人も多かろう。

では上司はどうやったら部下にやる気を持たせ、しかもそれを続けさせられるのだろうか。

先に挙げたデュヒッグ氏はその著書『あなたの生産性を上げる8つのアイディア』(原題は“ Smarter Faster Better: The Secrets of Being Productive”)の中で、いの一番で「やる気を引き出す」という項目を挙げており、その秘訣を「選択する機会を与える」ことだと断定している。幾つかの実験によると、命令されたものではなく自分で選んだものなら、人はどんなつまらない仕事でも進んでやる傾向がみられるという。

もっと正確にいうと、やる気を引き出すのに一番効果的な方法は2つのことを達成することだという。一つは自己決定権、つまり「自分で自分をコントロールしているのだ」と自分に確信させること。もう一つは、その行動に、より大きな意味を与えることだ。

とにかく選択することで人は「自分で自分をコントロールしている」という感覚を得ることができ、その感覚が私たちを行動に駆り立てるのだ。

だから優秀な保険営業員は、見込客に「どうしますか?」と尋ねる代わりに、「毎月払いにしますか、それとも一括年額払いにしますか?」という具合に客に続けて選択させることで、客がすべて自分で決めたように感じさせながら契約を取るのがうまい。

一方で、介護施設でずっと決められた通りのスケジュールやメニューで生活していると、大抵の人は受け身の態度が完全に定着してしまい、肉体的にも精神的にも急速に衰弱していくものだ。これは自己決定の快感を脳が忘れてしまうために、やる気を引き出す能力や生きる気力を失わせる最も効果的な方法なのだ(したがって将来完璧な介護ロボットが開発されて老人たちに「上げ膳、据え膳」の生活をずっとさせると、利用者は幸せになるどころか急速に痴呆が進んでしまうだろう)。

しかも単なる自己決定をするだけではなく、自分の選択に意味があると感じられると、人は本当にやる気を出すことができる。それは選択が、単に自分で自分をコントロールしていることの表れではなく、自分の価値観や目標を確かめることでもあるからだとデュヒッグ氏は指摘している。

このことは、やる気を引き出す立場にいる管理者や経営者の視点からだけでなく、やる気を出して仕事に取り掛かりたい我々自身にとっても重要な示唆である。

何か新しい課題に取り組もうとする時、または上司から面白くなさそうな仕事を与えられたとき、自分の感情を殺して「給料分は働くよ」と黙々と取り組むのはストレスを溜めるだけだ。

それより自分に「なぜ?」と問い掛けてみよう。「なぜこの仕事はなされなければならないのか?」「なぜこの書類を作らなければいけないのか?」と。するとごく些細なタスクや課題だったはずが、より大きなシステム全体もしくは自分の計画・目標の体系の一部としてつながってくるだろう。

たとえ些細な課題でも、それを自分が選びとる限り、大きな感情的報酬をもたらすことに気づくだろう。なぜなら自分が意味のある選択をしており、自分で自分の人生をコントロールしているのだということを証明してくれるからだ。そのとき、やる気が湧いてくるのだ。

とはいえ、こういう感覚は、その人の『統制の所在』(Locus of Control/行動や評価の原因を自己や他人のどこに求めるかという教育心理学の用語)によって相当違ってくるようだ。
『統制の所在』が外にある人はいわゆる「他責」人間で、自分の自由にならない外部の要因に責任をなすりつける傾向がある。逆に『統制の所在』が自分の内部にある人は、成績が悪かったり結果が出なかったりしたとき、運が悪かったと考えずに自分の努力が足りなかったせいだと考える。

後者のタイプの人であればよりスムーズに、意味のある選択することで自分が自分の人生をコントロールしているという感覚が強まり、脳に対する感情的報酬を自分で与えることができ、したがってやる気を出すことができ、生産性の高い仕事ぶりを見せることができるのだ。

『統制の所在』は理屈を理解したからといってすぐに変わる訳ではないので、上司が他責傾向の強い部下に「人のせいにするな」と一度や二度叱ったくらいで治るものではない。しかしながら、厳しい訓練や練習を重ねることで少しずつ「自分の努力が成果の達成につながる」感覚が養われるのも事実だ。

したがって管理者や経営者は部下に対し頭ごなしに命令するのではなく、多少面倒でもできるだけ自己決定の機会を与え、その意義とやり方を自分で考えさせることが肝心だ。そして結果が改善したら、成果そのものだけでなく「努力が実を結んだ」ことを褒めてあげるのが、当人の「やる気スイッチを押す」習慣づけにもなるということだ。

そしてこれが「人を育てる」ということの極意の一つだということを、小生も昔、大好きな上司に教えてもらったことがあることを申し添えたい。